2003年(1月〜6月)映画館で観たレビューです。


007/ダイ・アナザー・デイ ★★★☆
1票のラブレター ★★★★
8 mile ★★★
CUBE 2 ★★★
Kissing ジェシカ ★★★☆
NARC/ナーク ★★★★
SWEET SIXTEEN ★★★★
the EYE 【アイ】 ★★★☆
WATARIDORI ★★★★☆
X−MEN 2 ★★★☆
愛している、愛してない・・・ ★★★☆
アバウト・シュミット ★★★★
アレックス
★★★
アンダー・サスピション ★★★☆
インプラント ★★
ウェルカム!ヘブン ★★★
運命の女 ★★☆
エルミタージュ幻想 ★★★★
おばあちゃんの家 ★★★★☆
過去のない男 ★★★★
風の絨毯 ★★★
家宝 ★★★
神に選ばれし無敵の男 ★★★★
カルマ ★★★
歓楽通り ★★★
カンパニー・マン ★★★☆
キス★キス★バン★バン ★★★★
きみの帰る場所/アントワン・フィッシャー ★★★☆
キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン ★★★★
ギャングスター・ナンバー1 ★★★☆
草ぶきの学校 ★★★☆
クリスティーナの好きなコト ★★☆
黒水仙 ★★★☆
ゴーストシップ ★★☆
サラマンダー ★★★
ザ・コア ★★★
シカゴ ★★★★
至福のとき ★★★☆
少女の髪どめ ★★★★
人生は、時々晴れ ★★★★
ジェイ&サイレント・ボブ/帝国への逆襲 ★★☆
スコルピオンの恋まじない    ★★★★ 
ストーカー ★★★
スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする ★★★★
戦場のピアニスト ★★★★☆
ソラリス ★★★
ダークネス ★★☆
ダブル・ビジョン ★★★
小さな中国のお針子 ★★★★
デアデビル ★★★
デブラ・ウィンガーを探して ★★★
ドリームキャッチャー ★★☆
ニューヨーク 最後の日々 ★★★
ネメシス/S.T.X ★★★
灰の記憶 ★★★☆
裸足の1500マイル ★★★★
春の惑い ★★★☆
バティニョールおじさん ★★★★
パイラン ★★★☆
ピノッキオ ★★☆
ビロウ ★★☆
フィアー・ドット・コム ★★☆
ふたりのトスカーナ ★★★★☆
ブラック・ダイヤモンド ★★★
ブラッディ・マロリー ★★☆
ブリー ★★☆
ブロンドと柩の謎 ★★★
ヘヴン ★★★★
北京ヴァイオリン ★★★★
ボイス ★★☆
抱擁 ★★★★
ボウリング・フォー・コロンバイン ★★★☆
僕のスウィング ★★★☆
ボーン・アイデンティティー ★★★
マトリックス・リローデッド ★★★★
ミニミニ大作戦 ★★★★
メイド・イン・マンハッタン ★★★
めぐりあう時間たち ★★★★
ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密 ★★★☆
ライ麦畑をさがして ★★★
リベリオン ★★★
略奪者 ★★★
猟奇的な彼女 ★★★☆
レッド・ドラゴン ★★★
ロベルト・スッコ ★★★
わすれな歌 ★★★☆




007/ダイ・アナザー・デイ (2002)
Die Another Day
★★★☆
アメリカ
監督リー・タマホリ
出演ピアース・ブロスナン、ハル・ベリー、トビー・スティーヴンス、ロザムンド・パイク、リック・ユン

「007」シリーズ20作目であり、40周年記念作品です。

アクション映画にありがちな矛盾している点は多々あるのですが、
派手なアクションとスケールの大きさで、全く感じさせません。
むしろ、強引なストーリー運びとスピード感が、
この映画の魅力となっています。

普通の映画ならクライマックスに値するアクションシーンが、
ストーリー全体の中にたくさんちりばめられています。
多用し過ぎてやや散漫になった感じはありますが、
ファンにはとても嬉しいところです。

最新ハイテク機器の数々も健在です。
ロケットランチャーや最新の機器を搭載したボンド・カーや
武器の仕込んだサーフボードなど・・・
あまりの奇想天外な秘密兵器に少々呆れながらも、
観ていて爽快、楽しく痛快です。

■過去19作品へのオマージュともなっています。
ジンクス(H・ベリー)が海から上がるビキニ姿など、過去の有名なシーンが見る事が出来ます。
また、過去に使用されたアイテムがさり気に登場するので、それらを見つけるのも楽しいです。
観ていて気持ちが良い作品です。



1票のラブレター (2002)
Secret Ballot
★★★★
監督・脚本ババク・パヤミ
原案モフセン・マフマルバフ
出演ナシム・アベディ、シラス・アビディ

2001年、ヴェネチア国際映画祭最優秀監督賞 受賞
                     OCIC賞(国際キリスト協会賞) 受賞
                     ユニセフ賞 受賞
                     NETPAC賞(アジア映画賞) 受賞
                     パズィネッティ最優秀映画賞 受賞

ペルシャ湾の島、キルシュ島が舞台。
島の票を集める為やって来た選挙管理委員の女の子と、無骨な青年兵士が1日かけて島を回る風景を描いたコミカルで温かいドラマです。

静かで時が止まったような島。
何処までも続く白い砂浜と青い空・・・
静寂の中で営む人々を訪問する2人を観ていると、この映画には、他の映画では見られない『間合い』を感じることが出来ます。

イスラム社会が抱える古い伝統になかなか受け入れてもらえない2人ですが、行く先々でのエピソードは何故か優しく温かい気持ちにさせてくれます。
同時に、青年兵士が女の子に抱く淡い恋心も描かれています。
兵士の女の子に対する気持ちは伝わること無く終わりますが、ラストシーンで、いつもの日々に戻るべく海辺に佇む兵士の姿には小さな愛の余韻を感じさせます。

随所にユーモアなタッチで描かれてる部分がありますが、車が通らない砂漠に信号があるのもその一つです。
民主主義を信奉し法律の大切さを説く女の子と、軍人にありがちな差別意識を持ついい加減とも思える兵士が、ここの場面では立場が逆転してしまいます。
民主主義の可笑しさを突いたエピソードでもあります。

■キルシュ島の静かな日常を感じることが出来ます。
東洋的な『間合い』が魅力的。
最初は小さな小船で送って来られた女の子が、ラストでは、迎えに来た時はジェット機というギャップが何とも可笑しいです。



8 mile (2002) 公開(2003)
★★★
アメリカ 1時間50分
監督カーティス・ハンソン
音楽エミネム
出演エミネム、キム・ベイシンガー、ブリタニー・マーフィー、メキー・ファイファー

1995年、ミシガン州デトロイト。
ヒップホップ・スターを夢見る青年が、プレス工場で働きながら、数々の問題を乗り越え成功していく様子を描いたドラマです。
ヒップホップ界のカリスマ、エミネムの半自伝的な作品です。
貧しく過酷な家庭環境で育ったエミネムの、爆発しそうな怒りや憤りが伝わって来ます。

※ 「8マイル」とは、デトロイト市において、中産階級の白人が多数住む郊外と、低所得者の黒人が大半を占める町とを分断するストリート名(=8マイルロード)を意味しています。

本作品は、2002年、アカデミー賞最優秀歌曲賞を受賞しています。
他、多数受賞。

■ラップを聴いたことが無い人でも充分に楽しめ、入り込んでいけます。

かつては自動車産業で繁栄したデトロイト市。
現在の荒廃した、寒々しい街並みに驚きます。

クライマックスのラップ・バトルは、いわゆる相手を罵り合う悪口合戦です。
自伝的映画なので、リアル感はありますが、
それ以上の崇高なリリック(=歌詞)で自己表現して欲しかった人も多いはず。



CUBE 2  (2002) 公開(2003)
Cube 2 : Hypercube
★★★
アメリカ 1時間35分
監督・脚本アンドレイ・セクラ
出演ブルース・グレイ、マシュー・ファーガソン

ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の「CUBE」より5年ぶりの続編。
監督はバトンタッチして、「アメリカン・サイコ」等の撮影を手掛けたアンドレイ・セクラが担当しています。
前回同様、謎の立方体CUBEに閉じ込められた男女8人の決死の脱出を描いたサバイバル的・SF・ホラー・サスペンスです。

前作「CUBE」では、ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の斬新なアイデアと衝撃的映像で世間を驚かせた異色サスペンスでした。
本作品では、続編ということで前作の設定はそのままに連続したシリーズ物となっています。
物語は新たに2名を加え、新しい登場人物のスタートで始まります。

前作との相違点は、CUBEのトーンがダークな色調から真っ白に光り輝くホワイトな映像に変わったこと。
そして、前作とは明らかに違う、時間と空間の概念を超越した『四次元立方体』という卓上の理論でしかない設定となっています。

前作では物語の背景が謎のまま不条理な終わり方をしたので、さまざまな憶測が飛び、印象がそのまま後に残る映画でした。
今回は、ラストで背景の謎が解き明かされます。
すっきとした反面、不条理性と何とも言いようのない不思議な感覚は消え失せ、理路整然とした趣になっています。

■前作「CUBE」と比べると、続編の宿命とも言うべき、かなりの斬新性と衝撃性、危機感は失われています。
また、密室サスペンスとしての恐怖感や、今にも窒息しそうな閉塞感も半減しています。
しかし、続編でありながら、「1」を観なくても本作品のみでも充分に楽しめる設定となっています。

ラストは第3弾を予感させる終わり方です。
ただ、前作の謎を残したままの終わり方では無く、今回はかなり物語の終結の範囲を狭めてしまった為、続編を作るに当たってはストーリー展開が難しいのではないかと思われます。



Kissing ジェシカ (2002)
Kissing Jessica Stein
★★★☆
アメリカ 1時間37分
監督チャールズ・ハーマン・ワームフェルド
出演ヘザー・ジャーゲンセン、ジェニファー・ウェストフェルド、トーヴァ・フェルドシャー、ジャッキー・ホフマン

NYを舞台に、ふとした事から女性同士が恋に落ちてしまう様子を、上司であり元恋人である男性も絡めて描く、コメディタッチのラブ・ロマンス映画です。

NYの新聞社に勤務するジャーナリストのジェシカ(J・ウェストフェルド)は、適齢期を過ぎてしまいそうなのに、なかなか良い男性に巡り会えない・・・
28歳という微妙な年齢であるジェシカのあせる気持ちや、男性に完璧さを求めてしまう心情を上手く表しています。
やがて、ギャラリーで働くヘレン(H・ジャーゲンセン)と恋に落ちますが、
カフェやお互いの部屋で交わす会話は、普段の私達の会話と変わらず臨場感に溢れています。
女性同士しか分からない気持ちや、感情の起伏を上手く描いています。

最終的には、お互いの気持ちがずれて別れてしまう2人ですが、
別れても以前のように友達で居られる関係が素敵です。
また、女同士の恋愛を通して学んだ事も多く、
映画の中でも引用されるリルケの詩集
  すべてを受け入れられる人 
  いかに斬新なことでも拒まない人だけが
  実り多い人間関係を築くことができる
まさにこの言葉通り、自分を認め、
新しい自分を発見する前向きな気持ちになって行きます。

ラストは、それぞれが成長し、新たな恋を掴むハッピーエンドな締めくくりです。

■都会で働く等身大の女性を描いています。
レズビアンの話ですが、いやらしさは全く無く、むしろ共感を覚える部分もあります。
ジェシカの家族も巻き込んで、家族の温かさを感じさせるキュートなラブ・コメディになっています。



NARC/ナーク (2002) 公開(2003)
★★★★
アメリカ 1時間45分
監督・脚本ジョー・カーナハン
出演ジェイソン・パトリック、レイ・リオッタ、アラン・ヴァン・スプレンジ

デトロイト。
麻薬捜査の覆面捜査官で、流れ弾が民間人に当たってしまった過去持つ男と、
同僚を殺害された熱血漢のベテラン刑事。
2人がコンビを組んで、死んで行った刑事の謎を追う・・・
硬派な骨太のサスペンス・ドラマです。

※「NARC」とは、麻薬捜査官、密告者を意味する俗語です。

捜査の過程で、死んだ刑事マイク・カルベス(A・V・スプレンジ)やニック・テリス(J・パトリック)、ヘンリーオーク(R・リオッタ)刑事の秘められた過去が浮かび上がって来ます。
複数の食い違う証言に当たりながらも、次第に事件の真相に近づいて行く展開です。
二転三転するストーリー構成と、力強いタッチの乾いた映像。
それぞれの刑事たちの苦悩と葛藤、そして複雑な心理状態を上手く表現しています。

■中堅俳優のイメージがあるジェイソン・パトリックとレイ・リオッタ。
2人の迫真の演技も見所の一つです。

オープニングの手持ちカメラでの映像から始まるスリリングなシーン。
ラストは、ボーゼンとする驚愕の事実が。



SWEET SIXTEEN (2002)
★★★★
監督ケン・ローチ
出演マーティン・コムストン、ウィリアム・ルアン、アンマリー・フルトン

本作品は、2002年、第55回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞しています。

スコットランドの田舎町を舞台に、
15歳の少年リアム(M・コムストン)が、家族の愛を取り戻そうと奔走する姿を描いています。
母と姉と暮らす安息の場所を求めて、必死になればなるほど、どんどん深みにはまって後戻りが出来なくなる姿を描いた青春ドラマでもあります。

舞台はイギリスの労働者階級の人々が暮らす田舎町であり、
背景には、ドラッグ問題、不況経済の深刻な状況、それぞれが抱える家族の悩み・・・等が複雑に絡み合い混沌とした生活を形成しています。

リアムが親友ピンボール(W・ルアン)と遊ぶ日々から、大人の裏社会に仲間入りする過程を描いていますが、
家族を想う気持ちと、ささやかな生活を夢見る気持ちが、彼を懸命に走らせています。
今の状況から必死になって抜け出そうともがき苦しむリアムの行動は、彼の勇気と共に、彼の表情を少年から大人の姿に変えて行きます。

親友であったピンボールとのすれ違いと葛藤、そして決別・・・
母を想う気持ちとは裏腹に、変える事の出来ないどうしようもない母・・・
自分が夢見た家族の未来は遂にかなうことなく、失ったものはあまりに大きいです。
母を思う気持ちが純粋なだけに、観ている者は心が痛みます。

■社会問題を背景に、ある少年の切ない心の叫びを感じとって下さい。
きらきらした青春の一ページはもう戻らない・・・そんな気持ちにさせるほろ苦い感動のドラマです。



the EYE 【アイ】 (2001) 公開(2003)
★★★☆
香港・タイ 1時間39分
監督・脚本・編集オキサイド&ダニー・パン
出演アンジェリカ・リー、ローレンス・チョウ、チャッチャー・ルチナーレン、キャンディ・ロー、ワン・スーユエン

タイで16歳の盲目女性が角膜移植手術をした1週間後に自殺・・・
本作は13年前に香港の新聞に載っていた事件を題材に作られています。

2歳で失明した20歳の女性が角膜移植手術を受け視力を取り戻しますが、
その日を境に幽霊が見えるようになってしまうという、恐怖の体験を描いたサスペンス・ホラーです。

幽霊の描写が、東洋的なじっとりした薄気味悪さがベースになっています。
CG描写と衝撃的な音楽を駆使して怖さを演出していますが、
土台になっている東洋的な怖さを損なうことなく恐怖感を盛り上げています。
昼夜問わず現れる幽霊は、病院、エレベーター、食堂、ハイウェイ、
マンション、書道教室など至る所に出没しますが、
安易なモンスター化になっておらず、気配を感じさせつつインパクトある描写にしたところが返って怖さを感じさせます。

後半は、角膜移植のドナー提供者の謎に迫ります。
たどり着いた真実は、あまりに悲惨な哀しい事実です。
数々の恐怖体験で自分を見失いそうになりながらも、
恐怖に屈することなく苦悩を乗り越えたマン(A・リー)の成長物語になっています。

■ホラーを見慣れていない人は怖いかも知れません。
ホラー映画ですが、心を打つ感動のドラマでもあります。



WATARIDORI (2001) 公開(2003)
Le Peuple migrateur
★★★★☆
フランス 1時間39分
総監督ジャック・ペラン
共同監督ジャック・クルーゾ、ミッシェル・デバ
音楽ブリュノ・クレ

本作品は、2002年、アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされました。
また、セザール賞(=編集賞)など多数受賞しています。

撮影は、1998年7月(=アイスランドから)2001年6月(=モンタナまで)にかけて行われました。
3年の歳月をかけて撮影され訪れた国は40箇所以上、製作費用は20億円を費やされています。
スタッフは6チームに分かれ、その中には、超軽量航空機のパイロット17人、写真監督14人、アニメ映画監督5人、フィクション映画監督9人、鳥類専門家など多彩なスタッフで構成されています。
本作品では、100種類以上の渡り鳥の飛行が収めらています。

この作品が観ている者に感動を与えるのは、
CGを一切使わない撮影であること、人間の手による演出などが一切加えられておらず、ありのままの姿を写していること等が挙げられます。
鳥たちが海を渡り山を越える姿を共に飛行して撮影している為、鳥たちの目線で観た映像になっています。
ナレーションやバックミュージックなどは最小限に留めてあります。
静寂した大自然。
鳥たちの鳴き声や小さな羽音、さえずりさえも聴くことが出来るので、
あたかもそこにいるかのような臨場感におちいり、静かな心地よい気持ちになります。

飛行している最中に厳しい自然の中で命を落とす者や、
より強い者に狙われ食べられてしまう者など、弱肉強食の世界も撮影されています。
また、自然の摂理とは別に、人間の銃で撃ち落されたり、工場地帯の重油の泥に足をとられ飛行出来なくなった鳥の姿などは、別の意味で胸が痛みます。

■素晴らしいドキュメンタリーです。
渡り鳥の生態や、自然の驚異に触れる事が出来る貴重な作品です。
必見です。
ただ、あまり関心の無い人が観ると心地よい眠りに誘われる恐れがあります(=笑)



X−MEN 2 (2003)
★★★☆
アメリカ 2時間5分
監督ブライアン・シンガー
原作スタン・リー
出演パトリック・スチュワート、ヒュー・ジャックマン、イアン・マッケラン、ハル・ベリー、アンナ・パキン、ファムケ・ヤンセン

「X−MEN」(=2000年公開)に続く第2弾。
監督は前作同様、ブライアン・シンガーです。

「X−MEN」とは、マーヴェル・コミックスの編集長(=原作者)スタン・リーが生み出した人気コミックスであり、
遺伝子の突然変異で出現したミュータントの苦悩と活躍を描いた近未来アクションです。

前作は104分と時間も短めで、登場人物の紹介に追われていてストーリーが消化し切れておらず、物足りなさが残りました。
今回は、登場人物の紹介もそこそこに、ストーリー重視の展開となっています。
話の奥行きと、新たな敵との戦い、そして、前回謎のままに終わったウルヴァリン(H・ジャックマン)の秘密も少し明かされる為、さらなる面白さが広がっています。
最新のVFX映像とアクション、そして新たなミュータントの出現・・・
新しい要素を取り入れていますが、前作の展開を生かしつつ、話も散漫になっていません。
第2弾は前回よりも進化しています。

■本作だけを観ても話は十分に分かりますが、「1」を観ておいた方がさらに良し。



愛している、愛してない・・・ (2002) 公開(2003)
A la folie ... pas du tout
★★★☆
フランス 1時間36分
監督・脚本レティシア・コロンバニ、
出演オドレイ・トトゥ、サミュエル・ル・ビアン

フランス、ボルドー。
想像力豊かで夢見がちな女の子が、ハンサムな開業医に恋をして・・・
相手を一途に思うあまりに、途方も無い事件を引き起こしてしまう恋の行方を描いたラブロマンス・サスペンスです。

物語は2構成から成っています。
前半部分は、主人公の美大生アンジェリク(A・トトゥ)と開業医ロイック(S・ル・ビアン)との恋物語を綴っています。
この部分だけ見ると、極めて「アメリ」を思わせる演出なのですが、
後半以降は、ストーリーも演出もガラリと変わって行きます。

「アメリ」のような単なるラブ・ストーリーとは違い、
ラブ・ストーリーに綿密なサスペンスを加味した作品です。

■最初は、「アメリ」の亜流作品かと思いますが、観終わった後は全く違う印象です。
「アメリ」「愛してる、愛してない・・・」の女の子は、主観的に見ると夢見るキュートな女の子。
客観的に見ると、実は、空想壁のあるアブナイ人となります。

過去の某作品を思わせるようなこの作品、観終わった後、再度確認したくなる映画です。



アバウト・シュミット (2002) 公開(2003)
About Schmidt
★★★★
監督・脚本アレクサンダー・ペイン
出演ジャック・ニコルソン、キャシー・ベイツ、ダーモット・マルロニー、ホープ・デイヴィス

ネブラスカ州オマハ。
一流会社に勤め平凡な人生を送って来た男が、66歳にて定年退職。
第二の人生を歩もうとした矢先、妻が急死し、一人娘は意に反した相手と結婚してしまう・・・
心のよりどころと行き場を失った、
定年退職者の悲哀を描いたヒューマン・ドラマです。

主人公のウォーレン・シュミット(J・ニコルソン)は、これまでの人生を振り返る為、キャンピング・カーに乗って故郷へと旅に出ます。
いわゆる自分探しの旅でもあります。
アフリカの恵まれない子どもへ月に22ドル寄付することになりますが、
少年に宛てて書く手紙の朗読が、そのままナレーションの役割を果たしています。
シュミットの腹立たしい怒りや心を、強く感じる事の出来るシーンです。

一つ一つのエピソードもありがちな話をコミカルに上手く演出されていて、
最後まで見入ってしまいます。
主人公の男も、てんで冴えないのになぜか魅力的。

■定年退職後から始まる新しい人生の生き方を模索します。
平凡な男の孤独と戸惑い、そして哀しみ。
結局のところ、最初と最後では、男には殆ど大きな変化がありません。
それが返って新鮮で良し♪



アレックス (2002)
Irreversible
★★★
監督・脚本・撮影・編集ギャスパー・ノエ
出演モニカ・ベルッチ、ヴァンサン・カッセル、アルベール・デュポンテル、フィリップ・ナオン

パーティの帰り道でレイプされた女性アレックス(M・ベルッチ)
彼女の婚約者マルキュス(V・カッセル)の起こす復讐劇を、時間を逆行させるスタイルで描く問題作。

冒頭から始まる壮絶な暴力シーン、9分間に及ぶレイプシーンで話題になった作品です。
前半の暴力シーンでは、暗闇での混沌とした舞台設定と、狭い空間をくるくると回るカメラワーク、上下左右にぶれるカメラの視点が、あたかもマルキュスの混乱した怒りの心情を表しているようです。
観ている者は、軽いめまいを覚え、船酔いのように気分が悪くなりそうです。

時間が逆行するに従い、2人の満ち足りた幸せな時が描かれます。
前半の凄惨な暴力・レイプシーンとの対比が空しく哀しい気分にさせられます。

■R−18指定。
かなり好き嫌いの別れる作品です。
暴力シーンを描きつつ、ゲイ・階層・女性差別を訴えるメッセージ性も潜んでいます。



アンダー・サスピション (2000) 公開(2003)
Under Suspicion
★★★☆
アメリカ 1時間50分
監督スティーヴン・ホプキンス
原作ジョン・ウェインライト
出演モーガン・フリーマン、ジーン・ハックマン、モニカ・ベルッチ、トーマス・ジェーン

原作は、ミステリー作家であるジョン・ウェインライトの「Brainwash」
1981年、クロード・ミレール監督により映画化されています。「レイプ殺人事件」フランス映画

プエルトリコ島、サンファンの港町。
連続少女レイプ殺人事件が発生・・・
警察側と、被疑者にされた税務弁護士である地元の名士との息詰まる攻防戦を描いたサスペンス・ドラマです。

事情聴取に当たる警察署長ビクター・ベネゼー(M・フリーマン)は、当初から弁護士ヘンリー・ハースト(G・ハックマン)を犯人と想定し、その不確かな事実を念頭に置いた捜査をしています。
捜査の過程で次々と明らかになる、弁護士と妻シャンタル(M・ベルッチ)の隠された秘密。
弁護士の証言も二転三転するので、彼の証言の信憑性が疑われます。

主に、警察所長と弁護士との会話でストーリー進行して行きます。
その過程で、過去の出来事をフラッシュバックとして挟み込んで行きます。
観ている方も、誰が真犯人か最後まで分かりません。

人と人との信頼関係。
大切な人をどこまで信じてあげれるのか。
そして、最後の微かな信頼をも失った時、人は絶望し破滅して行きます。
一度、完全に壊れたものは、二度と元には戻りません。

■本格的な第一級サスペンス・ミステリーです。
最初から最後まで、緊張感あふれる展開に見入ってしまいます。

誰でも免罪事件の当事者にされる恐ろしい一面も。



インプラント (2002) 公開(2003)
They
★★
アメリカ
監督ロバート・ハーモン
出演ローラ・レーガン、マーク・ブルカス

NYを舞台に、大学院生である女性ジュリア(L・レーガン)と、彼女を取り巻く若者たちに襲いかかる恐怖を描いたサスペンス・ホラーです。
幼い頃に体験した闇での恐怖が、大人になった今、再び彼らに襲い掛かろうとして・・・
闇に潜む魔物に苦しめられ、その謎を解き明かそうと苦悩する様子を描いています。

「ヒッチャー」でデビューしたロバート・ハーモン監督の16年ぶりのホラー映画です。
雨が降り続き、停電が多発する沈んだ街並みと、
幼い頃、誰もが体験する闇への恐怖心や、暗い部屋に漂う嫌な雰囲気など、普段の日常に感じる『闇への恐怖』を描き出しています。

前半は霊的現象を思わせますが、実は、一種のモンスター映画です。

■闇に住む魔物が、何の為に、どういう選別で、彼らを襲うのか最後まで分からずじまいです。
若者4人が闇への恐怖に怯える様子を延々と見せ続けられるので、
観ている者は、単なる時間の消費と物足りなさを感じさせられます。



ウェルカム!ヘヴン (2001) 公開(2002)
Sin noticias de dios
★★★
監督・脚本アグスティン・ディアス・ヤネス
出演ビクトリア・アブリル、ペネロペ・クルス、ガエル・ガルシア・ベルナル、ファニー・アルダン

人口消失で破産寸前の天国と、人口過多状態の地獄。
お互いの存続を掛けた戦いの為、天国の使者と地獄の使者が地上に送り込まれます。
鍵を握るボクサーを巡って争奪戦が繰り広げられるラブ・コメディです。

登場人物は、どれも個性を生かしていて魅力的。
ただ、重要な位置を占めるボクサーだけが華に欠け、登場人物達からも距離を置いてる為、やや存在感に欠けます。
また、何故、彼の魂が必要なのか説明不足なので、盛り上がりも今ひとつです。

主に、天国と地獄の行方と、それに絡む天使ロラ(V・アブリル)と悪魔カルメン(P・クルス)のライバル関係から恋に陥る過程が中心です。

天国は、50年代のパリのモノクロで公用語はフランス語、
対する地獄の方は、熱気ムンムンの暑苦しさを感じさせる刑務所のイメージで公用語は英語・・・
そのギャップがかなり可笑しいです。

■それぞれの魅力を生かしたキャスティング、
天国のクラブで歌うV・アブリルと、P・クルスの「カンフー・ファイター」を踊るシーンも魅力全開です。



運命の女 (2002)
Unfaitful
★★☆
監督エイドリアン・ライン
原作クロード・シャブロル
出演ダイアン・レイン、リチャード・ギア、オリィヴエ・マルティネス

本作品のオリジナルは、クロード・シャブロル監督による1968年のスリラー映画(仏・日本未公開)です。

何不自由ない幸せな結婚生活を送っている妻であり母である女性が、あるきっかけで知り合った男性と深い中に陥ってしまう・・・
激しい情事に溺れることによって起きる悲劇を描くサスペンス・ドラマ。

不倫を題材にしたエロティックな演出で描くサスペンス感覚のラブ・ストーリーです。
主人公である女性コニー(D・レイン)が、良心の呵責に悩み苦しみながらも、誘惑に負けてしまい、男性の元に走って行ってしまうどうしようもない感情を上手く表現しています。
2人の出会いのシーン、死体を遺棄するシーン、共に強風が吹く演出は後の展開を予想させます。
特に、強風による出会いのシーンは、くるくる変わるカットが巧みで美しささえ感じさせます。
ラストも印象的。

■不倫による悲劇を描いた典型的な作品です。
不倫は良くないという見本のような作品。



エルミタージュ幻想 (2002) 公開(2003)
Russian Ark
★★★★
監督・脚本アレクサンドル・ソクーロフ
出演セルベイ・ドレイデン、マリア・クヅネツォワ

世界遺産でもある『エルミタージュ美術館』を舞台に、90分間ワンカットで、ロシア・ロマノフ王朝から現代に至るまでの300年の歴史を描いた作品です。

現代からロシア帝政時代にタイムスリップした主人公(ソクローフ監督の声)が、キュスティーヌ伯爵(=実在したフランス外交官)と共に、エルミタージュの回廊を巡りながら、ロシア近世・近代の300年の歴史を垣間見て行きます。
18世紀のエテカリーナ大帝、19世紀のニコラス一世に謁見するペルシャ使節団、20世紀のニコラス2世の家族の晩餐・・・
そういった歴史上の出来事が、各部屋やホールを舞台にカメラの前に現れては消えて行きます。

圧巻は、終盤の大舞踏会のシーンです。
絢爛豪華な舞踏会のシーン、そして舞踏会終了と共に会場から螺旋階段を降りて行く人々の波は、ただただ壮大でため息が出るばかりです。
尚、オーケストラの指揮は世界的マエストロのワレリー・ゲルギエフ、演奏はマリーンスキー歌劇場管弦楽団です。

*参考*
エルミタージュ美術館の所蔵品である絵画・美術品そのまま使用し、
90分間ワンカット撮影、
1300メートルに及ぶカメラの移動の為にステディカムを使用し、
一日4時間のみの本番撮影に向けて、綿密な打ち合わせ、リハーサル等を重ね撮影されました。
スタッフ・キャストは約2000人に及び、
映画史上に残る贅沢を極めた映画でもあります。

■美術的に興味がある方のみにお勧めです。
また、ロシア300年の歴史のひとコマを垣間見たい方にもお勧め。
・・・その他の方は眠くなる恐れあり(笑)
技術と芸術、歴史が融合した美しい夢のようなひとときです。



おばあちゃんの家 (2002) 公開(2003)
The Way Home
★★★★☆
韓国 1時間27分
監督・脚本イ・ジョンヒャン
出演キム・ウルブン、ユ・スンホ、ミン・ギョンフン、イム・ウンギョン、トン・ヒョフィ

本作品は、韓国のアカデミー賞とも言うべき、
2002年 大鐘賞最優秀作品賞、最優秀脚本賞、最優秀企画賞を受賞しています。

深い山村にある貧しい一軒家。
ひと夏の2ヶ月間、おばあちゃんの家で過ごす事になった7歳の少年と、おばあちゃんとの心の交流を描いたノスタルジック溢れる感動のドラマです。

都会育ちでわがままな少年と、長年、山村で一人暮らしをして来た素朴で優しいおばあちゃん。
都会育ちの少年サンウ(ユ・スンホ)は、田舎の家に来ても一日中ゲーム機で遊び、食事は家から持参した缶詰とコーラ。
おまけに、おばあちゃん(キム・ウルブン)を無視し、悪態をつく始末・・・
それらのエピソードだけで、都会で母親と2人暮らしをしていた生活ぶりがうかがえます。
しかし、自然の中でおばあちゃんと暮らす内に、次第に少年は変わって行きます。
自己中心的でわがままだった少年が、人を気遣う思いやりのある子供になる・・・
その辺りの少年の心の変化がとても自然に描かれています。

おばあちゃんと分かれる日、少年がおばあちゃんに託すはがきには、おばあちゃんの体を心配する少年の真心がこもった感動のシーンです。

この映画がたくさんの人々に共感を覚えるのは、
田舎暮らしの懐かしさと郷愁の念、そして、
理不尽なわがままや子供ならではの残酷な行為は、子供の頃、誰もが経験した事にあると思います。

■懐かしさと、温かさを感じる作品です。
どこまでも温かく愛情を持って接するおばあちゃんの姿を見て、
思わず自分を振り返ってみます。
親孝行しなければ・・・・・・
叙情豊かなこの作品、是非たくさんの人に観て欲しい素晴らしい映画です。



過去のない男 (2002) 公開(2003)
The Man without a Past
★★★★
フィンランド
監督・製作・脚本アキ・カウリスマキ
出演マルッキィ・ペルトラ、カティ・オウティネン、ユハニ・ニエミラ、カイヤ・パカリネン

2002年、カンヌ国際映画祭グランプリ・
       主演女優賞・パルムドッグ賞、受賞
2002年、アカデミー賞外国語映画賞ノミネート
その他、多数受賞しています。

ヘルシンキを舞台に、
暴漢に襲われて記憶を失った男(M・ペルトラ)が、周囲の人々の関わりの中で生きて行く姿をユーモアとロマンスを絡めて描いたドラマです。
現代社会への批判を織り交ぜながら、どこか切なさを感じさせるコメディタッチの映画です。

男の周囲に居る人々は、港湾に放置されたコンテナに住む、いわゆる低層階級の人達です。
社会的に恵まれていない彼らが、記憶を失った身分不詳の男に手を差し伸べ援助するところに人間としての温かさを感じます。
彼らは決して善人ばかりでは無いのですが、どこか憎めなく、ユニークで個性的な連中です。
また、彼らを世話する救世軍の人々や下町のカフェの主人など、この世界に関わる人達も同様です。

ラストでは、遂に自分の名前や過去を取り戻した男ですが、
過去を振り返らずに、現在の自分の居場所に留まり、イルマ(K・オウティネン)と共に前向きに生きて行こうとする姿に希望を感じました。

男が、救世軍の楽団にブルースやロックなどの曲を薦め、方向転換させた件や、そこで使われている曲がとても印象的です。

■記憶喪失の話ですが、ミステリー、サスペンス性はありません。
どこか、大人の童話を感じさせる映画です。
気合を入れて観に行くというより、昼下がりにのんびりと観たい映画です。



風の絨毯 (2002) 公開(2003)
The Wind Carpet
★★★
日本、イラン 1時間51分
監督カマル・タブリージー
出演 柳生美結、榎本孝明、工藤夕貴、三国連太郎、ファルボー・アフマジュー、レザ・キヤニアン

2003年、ファジール映画祭(=イランの国際映画祭)にて、
3部門(観客賞、審査員特別賞、国際カトリック教会賞)等を受賞しています。

飛騨高山。
祭りの山車を飾るペルシャ絨毯のデザインを任されていた母(工藤夕貴)が交通事故で死亡。
母の意志を引き継ぐ為、父(榎本孝明)と娘さくら(柳生美結)はイランを訪れますが、手違いで絨毯は織られておらず途方に暮れます・・・
一枚のペルシャ絨毯を通して、イランと日本の人々の心の交流を描いた感動ドラマです。

母を亡くしたさくらが、イランの人々の温かい心に触れて笑顔を取り戻して行く過程が自然なタッチで描かれています。
特に、ルーズベ(ファルボー・アフマジュー)のさくらに対する想いは、『何とかして笑って欲しい』と願う淡い恋心がひしひしと感じられます。

大勢の人々の協力と努力によって織られた絨毯・・・
限られた期間内での作業や、徹夜の作業、数々のトラブルに遭遇しながらも完成した絨毯には、人々の願いや想いが込められています。
文化の違う遠く離れた二つの国が一枚の絨毯で繋がっています。

■人々の心の温かさに触れる感動作です。
ただ、大きな感動とかでは無く、さらりとした癒しの映画です。
イランの比較的高所得者の人々を舞台にしているので、美しく整った映像です。
ある意味、観光的な紹介の意図も感じられます。

子役の柳生美結ちゃんの大きな瞳、笑顔がとても可愛らしいです♪



家宝 (2002) 公開(2003)
O Principio da Incerteza
★★★
ポルトガル、フランス 2時間12分
監督マノエル・ド・オリヴェイラ
原作アグシティナ・ベサ=ルイーシュ
出演レオノール・バルダック、レオノール・シルヴェイア、イザベル・ルト

ポルトガル北部、ドロウ河流域に広がる丘陵地帯。
美しく危うい魅力の女性が、大富豪に嫁いだことから起きる数々の顛末を描いたラブ・ロマンス映画です。

登場人物のセリフのみでストーリー展開して行く、独特の手法を取っています。

カミーラなる美しい女性が、財産目当てに大富豪と結婚したことによって、
夫、夫の友人でもありカミーラの幼なじみでもある青年、夫の愛人など
彼女に関わる人々が彼女に翻弄されていく様子が描かれています。
その他にも、仲人の突然の死など、
物語は、劇的な事柄などがたくさん盛り込まれていますが、
セリフのみの進行なので、実に淡々とした抑揚の無い展開となっています。
周囲の人間を巻き込んで行くさまは、普通のドラマであれば見入ってしまう場面なのですが、
この作品の場合は、最初から最後まで同じトーンで、本来クライマックスとなるべきシーンもストーリーの中に埋没しています。
静かな雰囲気を漂わせている単調なドラマです。

屋敷内での会話(=ストーリー進行)→列車の車窓の景色(=場所の移動)→屋敷内での会話→・・・
と延々と続く展開は、まるで紙芝居を見ているようです。

ポルトガルの街並みや、丘陵地帯に広がるブドウ畑の風景などが、ヴァイオリンの調べに乗って映し出されます。
富豪の屋敷や調度品など異国情緒に浸れます。

■マノエル・ド・オリヴェイラ監督の独特なカメラワークはある意味、新鮮です。
が、こういった手法が合わない人には、ひどく退屈な映画です。



神に選ばれし無敵の男 (2001) 公開(2003)
Invincible
★★★★
ドイツ・イギリス 2時間10分
監督・脚本ヴェルナー・ヘルツォーク
出演ティム・ロス、ヨウコ・アホラ、アンナ・ゴラーリ、ウド・キアー、マックス・ラーベ

1932年、ベルリン。ナチス政権下。
ヒトラー内閣が成立する前年が舞台です。
千里眼の目を持つ男ハヌッセンと、怪力の持ち主であるユダヤ人青年ジシェ。
この2人が出会い、大きな歴史の渦に巻き込まれ翻弄されて行く様子を描いたドラマです。
尚、ハヌッセンは実在した人物です。

ナチスの恐怖政治の到来を予感させる不穏な雰囲気がスクリーンから伝わって来ます。
『神秘な館』で行なわれる催眠術などのショーは幻想的なシーンが漂っていて、不思議な感覚にとらわれます。

ユダヤ人である事を隠し、身分を偽って地位や名声を得ろうとするハヌッセン(T・ロス)
ハヌッセンの何かに取りつかれた狂気的な行動には、哀れにさえ感じさせます。
片や同じユダヤ人として、ユダヤである事を誇りに思い、立ち上がろうとする鍛冶屋の息子ジシェ(J・アホラ)
ポーランドの田舎町から出て来た男は、素朴で心優しい男です。
が、あまりに実直過ぎる性格は、ある意味、愚かに見えます。
信念の違う2人を<無敵の男>として捉え、その生き様描いています。

■時代背景や、実在したハヌッセンの予備知識があるとさらに良いです。

ジシェの行動には、自分を雇ってくれた人に対する恩に欠ける気が・・・



カルマ 異度空間 (2002) 公開(2003)
Inner Senses
★★★
香港 1時間40分
監督ロー・チーリョン
出演レスリー・チャン、カリーナ・ラム、レイ・チーホン、ヴァレリー・チョウ

新居に引越しした日から、幽霊を見るようになり不思議な現象に悩まされる女性。
精神科医師は、心霊現象は心理学的に説明が付く為、霊の存在を否定、女性の治療は成功し回復に向かいますが、やがて医師の身に同じ様な症状が起こり始める・・・
日本製ホラーの影響を受けつつ、独自のカラーを持つ新しい感覚のホラーです。

本作品は、よくありがちな霊の存在を肯定した心霊現象を描いた作品では無く、
全ては心理学的に説明出来る為、全般に渡って霊の存在を否定しています。
つまり、人間が見える霊は、自身の過去の体験や雑誌・メディア等の情報による刷込み現象によるものであり、
それに、人が心の奥底にしまい込んだ過去の悩みや苦しみが作用し、あるきっかけで霊が見えてしまう錯覚に囚われてしまう・・・
オカルト的な演出をしながら、実は、オカルトを否定しているという、今までにない捉え方をしています。

精神科医ジム(L・チャン)は、患者であるヤン(K・ラム)を治療していく内に、やがて、自身の封印していた過去の出来事を開けてしまう・・・
自分自身の辛い過去、死んだ者に対する悔恨の念が、自分で霊のイメージを演出し、自ら発した霊からのメッセージを受け取ってしまいます。
『自分が否定していた霊に次第に追い詰められてしまう』
医者である自分が否定していた霊を見るということは、自分の自説を否定する事になり、さらに混乱して行きます。
恐怖におののき、次第に壊れて行く様子を、L・チャンは見事に演じています。

■人間の持つ心の弱さ、心の奥底に閉じ込めた哀しさを、いかに自分で昇華し納得のいくまで解決出来るか。
いわゆる『癒し』の映画でもあります。



歓楽通り (2002) 公開(2003)
Rue des plaisirs
★★★
フランス
監督パトリス・ルコント
出演パトリック・ティムシット、レティシア・カスタ、ヴァンサン・エルバズ、カトリーヌ・ムーシェ

第二次世界大戦末期、1945年のパリ。
娼館『オリエンタル・パレス』で生まれ育った男が、薄幸の娼婦に捧げる無償の愛を描いたラブ・ロマンス映画です。

娼館で、娼婦とお客の間に生まれた男プチ=ルイ(P・ティムシット)が、運命の女マリオン(L・カスタ)に出会い、一生を賭けて見返りのない愛を捧げる姿を描いています。
ただ見つめ献身的に愛し、一途に自分の気持ちに正直に生きています。
娼館で生まれ育った特殊な環境であることも起因していますが、打算的な愛が多い中、ある意味、羨ましいものがあります。

物語は、プチ=ルイとマリオンの関係から、ディミトリ(V・エルバズ)の関係をも交え、複雑な三角関係へと発展して行きます。
自分の気持ちを抑え、マリオンとディミトリの愛を願う気持ちには、寂しさと切なさと愛の証が感じられます。
ラストでは、マリオンとディミトリの死によって、プチ=ルイの表情は悲しみと安堵の表情が伺えます。

30〜40代のパリの娼館を舞台にしています。
娼館の持つ独特の色香と雰囲気、ざわめきまでもが、こちらにも伝わって来ます。

■大人の方が観る映画です。
艶っぽいけれど、R指定を思わせるシーンはありません。



カンパニー・マン (2001) 公開(2002)
Cypher
★★★☆
監督ヴィンチェンゾ・ナタリ
脚本ブライアン・キング
出演ジェレミー・ノーザム、ルーシー・リュー、ナイジェル・ベネット、ティモシー・ウェバー

近未来のアメリカが舞台。
ハイテク化が進み管理された情報化社会の中、人々は人工的に演出された空間で日々平穏に暮らす生活。
郊外に妻と暮らす平凡な男が、産業スパイに転身したことにより体験する数々の謎と記憶の迷路を描く異色のサスペンス・ドラマです。

平凡な男(J・ノーザム)がスパイになって得たスリルとサスペンス・・・
男が自信を持ち興奮する様子と、徐々に記憶が混乱し現状把握が出来ず苦しむ様子が描かれています。
自分自身を取り戻したい気持ちと、スパイになることによって得られる現実逃避感など複雑な気持ちが汲み取られます。

無機質なグレーの建造物、延々と続く没個性的・画一的な郊外の住宅地、同じ繰り返しの格子デザイン・・・観ているこちらにでさえ不安を感じさせる要素です。

■最後まで緊張感の続くスリリングなサスペンス・ドラマです。
60年代〜70年代前半のスパイ映画など「北北西に進路を取れ」、キューブリックの「時計仕掛けのオレンジ」など数々の映画へのオマージュを捧げた作品にもなっています。



キス★キス★バン★バン (2000) 公開(2002)
Kiss Kiss Bang Bang
★★★★
監督・脚本スチュアート・サッグ
出演ステラン・スカルスガルド、クリス・ペン、ポール・ベタニー、ピーター・ヴォーン

かつてはNo1だった殺し屋が能力の衰えを感じ引退を決意、
しかし、組織からは追われ、密輸業者の『33歳の箱入り息子』の子守も頼まれる・・・
長い春の恋人と死期の迫った父との交流を絡ませながら描く、
ノスタルジックあふれる異色のハードボイルドです。

原題は、Kiss kiss (Bang Bang)
劇中でババが唄う歌の一節から取られています。
007シリーズとミュージカル映画「チキ・チキ・バン・バン」へのオマージュを捧げた作品となっています。

コメディ仕立てのサスペンス・ハードボイルドです。
主に、冷酷な殺し屋フィリックス(S・スカルスガルド)が、33歳の子供ババ(C・ペン)との不思議な心の交流を軸に展開されます。
最初、フィリックスはババを疎んじながらも、何時しか次第にお互いに愛と友情を感じていきます。
また、妊娠した恋人シェリー(J・マッケンジー)との葛藤や、死期の迫った父(P・ヴォーン)との親子関係、フィリックスを慕う弟子のジミーなどの関係をも交えてストーリー展開されます。

ありふれた設定ながらユーモアを小出しに重ね重ね、魅力あふれる楽しい作品となっています。
美術や演出、色調など、登場人物のライフスタイルが細部にわたって練られており、見所の一つとなっています。

■観た後、心地よい余韻に浸れる作品です。
粋で笑える要素がたくさんあるけれど、何故かホロリとさせられる・・・
そんな一味違ったハードボイルドです。



きみの帰る場所/アントワン・フィッシャー (2002) 公開(2003)
Antwone Fisher
★★★☆
アメリカ 2時間0分
監督・出演デンゼル・ワシントン
脚本アントワン・フィッシャー
出演デレク・ルーク、ジョイ・ブライアント、サリー・リチャードソン、アール・ビリングス、ケヴィン・コナリー

実話を元にして作られています。
アントワン・フィッシャー本人が、ソニー・ピクチャーズの警備員をしていた時に、彼の半生がプロデューサーの耳に入り映画化に至りました。
本作品において、A・フィッシャーは脚本を手掛けています。
本作品は、アメリカ映画協会賞、ムービー・オブ・ジ・イヤー賞受賞・・
アメリカ国内で数々の賞を受賞しています。

刑務所で生まれた不幸な生い立ちの黒人青年水兵が、軍属精神科医との対話によって、自分と向き合い、精神的弱さを克服していく様子を描いたヒューマン・ドラマです。

実に、正攻法なヒューマン・ドラマです。
変に奇をてらうことなく、丁寧に真面目に描いているところに好感が持てます。

主に、アントワン・フィッシャー(D・ルーク)と精神科医ジェローム・ダベンポート(D・ワシントン)との対話によって、ストーリー展開します。
最初は、単なる部下と上司の関係であったのが、コミニュケーションを取って行くうちに、父親以上の存在になって行きます。
精神科医の親身な働きかけで、次第に心を開いて行き、自分をさらけ出して行く様子は、
『自身の気持ちを話す、そして、聞いてもらう』という行為だけでも、自分の傷と向合い、辛い過去を癒す浄化作用があるのだと思います。
また、相談に乗っている医師も、彼によって自分の閉ざされていた過去と向合うことになります。
まさに、人間は一人でなく、誰かに支えてもらい、また支えになっているということです。

本作品では、数々の問題を盛り込んでますが、(=人種差別、児童虐待、性的虐待・・・等)
それらの題材に振り回されることなく、『愛と自己再生』に主点を置いて描いているので、非常にストレートに感動がこちらに伝わって来ます。

■家族探しに出る旅の終着点は、涙無しでは観られません。



キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン (2002) 公開(2003)
Catch Me If You Can
★★★★
アメリカ 2時間21分
監督スティーヴン・スピルバーグ
出演レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクス、クリストファー・ウォーケン

1960年代、世間を騒がした実在の詐欺師フランク・W・アバグネイル。
16〜21歳の間に、約400万ドルを騙し取り、
世界26カ国をまたにかけ、移動し飛んだ距離は320万キロに及びます。
彼と、FBI捜査官との追跡劇を軸に、コミカルなタッチで描いた事実に基づくドラマです。

少年フランク・W・アバグネイル(L・ディカプリオ)の鮮やかに人を騙していくテクニックを披露して行くと共に、
孤独な少年の人生の再スタートを描いた作品でもあります。
また、彼の犯罪の根底には、失った家族の再生を願う愛が感じられます。
バラバラになった家族がまた一つ屋根の下に暮らしたいと思う気持ちがある為、彼に同情の念を覚え嫌な印象を与えません。
少年の心の痛みと切ない気持ちを織り込んだ青春映画とも言えます。
彼と、彼を追うFBI捜査官カール・ハンラティ(T・ハンクス)に、親子にも似た愛情が芽生えるのも注目です。

実在した犯罪を下地にした話なのに、重たくシリアスな作品にならず、
明るいコメディタッチのサスペンス劇になっています。
タイトルバックが粋で良い感じ、
また、1960年代の雰囲気がスクリーン全体から漂って来ます。

■心地よい感ありの上手くまとまった小品です。
出演者もさらりと演技しているようで好感が持てます。



ギャングスター・ナンバー1 (2000) 公開(2002)
Gangster Number 1
★★★☆
イギリス 1時間43分
監督ポール・マクギガン
出演ポール・ベタニー、マルコム・マクドゥエル、ディヴィッド・シューリス

ロンドン。
裏社会のボスに憧れた男が、ボスの片腕になり、やがてボスを裏切り頂点に上り詰めて行く過程を、現在と過去を交えて描いています。

主人公のギャングスター(P・ベタニー)がボス(D・シューリス)を慕うあまりに、服装から全てにわたり模倣し、ボスに追いつきボスと同化したいと願いますが、
ボスに恋人(S・バロウズ)が出来てからは殺したいほどに憎み、妬みます。
どんなに憧れていても、その人物にはなれず、
ボスを罠にはめ後釜に座っても、心は空虚のまま、決して満たされることはありません。
むしろ、初老になって出所したボスの方が、
財産、地位、名誉、全てを失ったにも関わらず、人生を全うして生きています。
愛する人の元へ帰って行くボスと、孤独なギャングスターとの対比が、
人生の全てを物語っています。

ラストは、全てを手にした(=ように見える)男の哀れな悲しい結末で終わります。

30年後のギャングスターを演じているのは、「時計じかけのオレンジ」のアレックスを演じたマルコム・マクドゥエル。
ポール・ベタニーが演じる若き日のギャングスターが、
音楽を掛けながら取り憑かれたように暴力をふるうシーンには、思わず「時計じかけ・・・」のシーンを思い出させます。

■過激なバイオレンスシーンがあります。
早く終わって欲しいと思うくらいであり、
R指定にするべきで、お子様には見せられません。

主人公のギャングスターのみ2役です。
若き日のギャングスターを演じるP・ベタニーがD・シューリスより遥かに背が高いのに対し、55歳になったM・マクドゥエルが背が低いのには少々違和感あり。



草ぶきの学校 (1999) 公開(2002)
Thatched Memories
★★★☆
中国 1時間47分
監督シュイ・コン
原作・脚本ツァオ・ウェンシュアン
出演ツァオ・タン、ウーチンチン、トゥ・ユアン

原作は、中国の人気作家ツァオ・ウェンシュアンによる「草房子」(日本題:サンサン)1997年に発表したベストセラー小説です。
ツァオ・ウェンシュアンの子供時代の思い出を元にした、9章、7つの物語で構成されています。
(=映画では、作者自身がこの内の5つのエピソードを選び、脚本・執筆されました。)

本作品は、中国において、1999年の主要な児童映画部門において数多く受賞、金鶏賞児童映画部門の最優秀作品賞、脚本賞、助演男優賞など多数、受賞しています。
海外においては、イスファン国際青少年映画祭、金胡蝶賞(イラン)
ジフォーニ国際映画祭、銅獅子賞(イタリア)
など受賞し、海外でも高い評価を受けています。

文化大革命以前の1962年、中国蘇州、太湖のほとりの村を舞台に、
美しい田園地帯に囲まれた
草ぶきの屋根の小学校を中心にして描かれた日常生活のドラマです。
大人になった少年サンサン(ツァオ・タン)の回想シーンとして語られ、
描かれて行きます。

サンサンの父親(トゥ・ユアン)が校長先生であり、
小学校の敷地内に住んでいるという事は、
彼と他の子供たちとは一線を引き、疎外感を感じさせます。
しかし、彼は、豊かな学校生活を通して、
友達との友情、過酷な運命などを少しずつ体験して行きます。
特に、どうしようもない境遇に置かれてしまった友達、
自分には計り知れないものがある大人の恋愛など、
子供の目を通して語られる物語には、
観る者に、昔を思い出させる切なさと、人々との温かさを感じさせられます。
物が今ほど無く貧しいと思われる生活でも、人々は温かく
どろんこになって遊んだ日々はかけがえのない幸せな日々です。

サンサン親子の関係は、境遇が違って体験した事がない人でも彼らの気持ちがよく分かります。
ラストの父とサンサンとのふれあいには思わず笑みと涙を誘います。

■戦前の日本を感じさせられる、ノスタルジックあふれるドラマです。
誰もが経験した楽しくほろ苦い日々の少年時代・・・
多感な少年たちの気持ちには、思わず共感出来るところがたくさんあります。
素直な気持ちで観れる映画です。
子供から大人まで、是非、たくさんの人に観てもらいたい作品です。



クリスティーナの好きなコト (2002) 公開(2003)
The Sweeting Thing
★★☆
アメリカ 1時間24分
監督ロジャー・カンブル
出演キャメロン・ディアス、クリスティーナ・アップルゲイト、セルマ・ブレア

一度だけの出会いで運命を感じたキュートなヒロインが、彼を追いかけて奮闘する、ちょっと下品なギャグ満載のラブ・コメディです。

適齢期の女の子同士の本音で語ったトークが面白いです。
自分が傷つくのを恐れて遊びの恋愛しかしないクリスティーナ(C・ディアス)が、真剣に恋する女に変って行く過程が描かれていて、
その辺りの女性の心理を上手くついています。

気軽に遊び続けて来た女の子が、運命の出会いの彼を探しに行く恋の行方を描いています。
いわゆるラブ・ストーリーの王道を行く映画ですが、
C・ディアス、C・アップルゲイト、S・ブレアの女同士のやり取りと、作品全体に溢れるギャグによって、軽いノリで楽しめる明るいラブ・コメになっています。

■キャメロン・ディアスのさばけた魅力で一杯です。
ただ、お下品な下ネタ・ギャグの連発なので、その手の話が苦手な人はご用心・・・
女性に比べて、男性陣に魅力が乏しいキャスティングも難点です。



黒水仙 (2001) 公開(2003)
The Last Witness
★★★☆
韓国 1時間43分
監督・脚本ペ・チャンホ
出演イ・ジョンジェ、アン・ソンギ、イ・ミヨン、チョン・ジュノ

ソウルで起きた1件の殺人事件を発端に、
歴史に翻弄された男女の悲哀を描いた社会派ミステリー・サスペンスです。

原作は、1974年に発表されたキム・ソンジョンの小説「最後の証人」
2001年、第6回、釜山国際映画祭オープニング作品です。

骨太の社会派ドラマをベースに、悲しくもはかない愛の物語が展開して行きます。
現代のソウルで起きた殺人事件を捜査する内に、次第に解明されていく過去の悲惨な出来事。
主に舞台となるのは、過去の回想シーンで登場する、朝鮮戦争中の巨済島にある捕虜収容所です。
(島内7箇所に設置され17万人の捕虜が収容されていましたが、思想の違いなどにより絶えず争いが絶えなかったそうです)
収容所での過酷な境遇や歴史のうねりによって、数々の裏切りや略奪の存在が有り、そして、引き裂かれた恋人たち。
戦争によって狂わされた運命と、
50年もの間、変わらず愛し続けた2人の愛の深さ。
ラストは、涙無しではいられません。

■あまり知られるのことの無い、朝鮮戦争中の捕虜収容所の歴史が分かります。
ラブ・ロマンスが軸になっていますが、決して感傷的になっていない所に好感が持てます。

ソウル〜巨済島〜日本・宮崎とロケが行われています。
宮崎においては、観光地が何箇所か登場するので、某2時間ドラマをふと思い出させてしまいます。
メーキャップにおいても、20代の頃と、現在の70歳になった顔は殆ど変わっておらず違和感があります。
日本に50年余り住んで町の名士になっている人が、カタコトの日本語を話すのも変・・・



ゴーストシップ (2002)
Ghost Ship
★★☆ (怖さは★☆)
監督スティーヴ・ベック
出演ガブリエル・バーン、ジュリアナ・マルグリーズ、ロン・エルダード

ダークキャッスルエンタテイメント製作による第3弾作品。

1962年にアメリカに向けて出港したまま消息を絶った豪華客船アントニア・グラーザ号。
40年の歳月を経て発見されたこの船に、
サルベージ会社『アークティック・ウォリアー号』のクルー達は調査の為乗船しますが、次々と彼らに異常現象が襲いかかり・・・
逃げ場の無い海上での恐怖を描くサスペンス・ホラー。

正統派感覚のホラー映画です。
冒頭10分間はショッキングな映像で驚かされますが、
それ以後は、幽霊船を題材にした映画の定石通りに一人一人姿を消して行くというオーソドックスな内容です。
あえてグロテスクな描写を最小限に留めたところに好感が持てます。

10m以上もある大型模型を使いCGと合成した映像は、ノスタルジックな雰囲気が漂っています。
全面的にCGに頼らない良さが伺えます。
荒れ果てた宴の後の船内など、朽ち果てた様子が上手く演出されており、
テンポの良いストーリー展開で、意外なラストの結末まで緊張感が続きます。
エンドクレジットもクラシックで素敵♪

■怖さに関しては少々物足りないので、観る人によって評価が分かれそうです。
ダークキャッスルエンタテイメント一連のシリーズ同様、上品なビジュアル感覚に優れた作品です。



サラマンダー (2002) 公開(2003)
Reign of Fire
★★★
アメリカ 1時間43分
監督ロブ・ボーマン
出演マシュー・マコノヒー、クリスチャン・ベール、イザベラ・スコルプコ

現代のロンドンに蘇ったサラマンダー(=翼を持ち炎を吐く巨大竜)
世界を破滅へと追いやったモンスターと、
生き残った人間たちとの壮絶な戦いを描いたパニック・アクション映画です。

怪獣映画ですが、ファンタジー的な要素は全く無く、
リアルに迫り襲いかかるモンスターと人間の死闘を描いています。
サラマンダーの生態や、僅かに生き残った者たちの要塞での生活、
モンスター退治に至るまでの経緯などがとても分かりやすく、
シンプルなストーリー展開になっています。
ヒーロー3人の活躍により人類が救われるに至っては、まさに怪獣映画の王道を行くようです。

■「アメリカン・サイコ」で神経過敏なナルシストを演じたクリスチャン・ベールが、本作では口ヒゲを蓄えた男臭い風貌で、
「評決のとき」などの知的なイメージがある演技派マシュー・マコノヒーは、ヒゲとスキンヘッドのマッチョでタフな男を演じています。
2人の熱く燃える闘いぶりに注目!!

モンスター退治に関しては、??と思える部分は多々ありますが、
男たちのガッツに良しとします♪



ザ・コア (2003)
The Core
★★★
アメリカ 2時間14分
監督ジョン・アミエル
出演アーロン・エックハート、ヒラリー・スワンク、デルロイ・リンドー、スタンリー・トゥッチ、チェッキー・カリョ、リチャード・ジェンキンス、D・J・クオールズ

突然、地球のコア(=核)が停止し、人類滅亡の危機に直面している事が判明します。
破滅に向かう地球をリアルに描き、
地球を救う為、地底に潜った科学者たち6人の活躍を描いたSF・パニック映画です。

ペースメーカーをつけた人が突然次々と倒れたり、鳩の群れが方向感覚を失って人々を襲い、スペースシャトルが制御不能になり不時着する・・・
オープニングから次々と起こる異常現象は、これから起こる地球の破滅を暗示しています。
特に、鳩のシーンは、有名なヒッチコックの「鳥」を連想させます。

■まさに、「アルマゲドン」の地底版です。
しかし、集められた6人は、科学者やスペースシャトルの乗組員である為、「アルマゲドン」よりはまだ信憑性が感じられます。
ツッコミどころ満載の(=不思議な)映画です。

意外と感動出来るシーンが少ないのが残念です。
CG描写をふんだんに使った大パニック映画なのに、何故か派手さが感じられないのも不思議なところです。



シカゴ (2002) 公開(2003)
Chicago
★★★★
アメリカ 1時間53分
監督・振付ロブ・マーシャル
出演レニー・ゼルウィガー、キャサリン・ゼダ=ジョーンズ、リチャード・ギア、クィーン・ラティファ、ジョン・C・ライリー

本作品は、2002年、アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀助演女優賞、
他多数受賞しています。

1920年代、シカゴ。
殺人を犯して投獄された2人の女、そして、彼女たちの弁護を引き受けた敏腕弁護士。
それぞれの思惑や野心が交差した人間模様と、鮮やかにしたたかに生きる姿を描いたミュージカルです。

スターを夢見る女と再びスターの座に返咲きたい2人の女は、スキャンダルを利用して表舞台で活躍しようと画策し、
弁護士の方は、彼女達を利用し富と名声を手に入れようとします。
2人の女の熾烈な戦いと駆引きにどきどきし、
パワフルな歌と踊りに魅了される2時間です。

■ミュージカルに普段馴染みが無く、苦手な人でも大丈夫です。
出演者の個性が光っていて、楽しく面白いコメディタッチのミュージカルになっています。



至福のとき 幸福時光 (2002)
Happy Times
★★★☆
監督チャン・イーモウ
出演チャオ・ベンシャン、ドン・ジエ、フー・ピアオ、リ−・シュエチェン、ニウ・ベン

中国、大連。
中年の失業中労働者の男が、結婚したいが為に嘘をつき、
嘘が嘘を呼び、盲目の少女の働き口を探す羽目になってしまう・・・
中年男性と盲目の少女が織り成す心温まるお話です。

原作は、現代中国の代表作家モー・イエンの短編小説です。

最初は押し付けらた義務感から始まったチャオ(チャオ・ベンシャン)ですが、だんだんと盲目の少女ウー・イン(ドン・ジエ)への思いやりと優しさに変わって行きます。
ウー・インもチャオとのふれ合いから、暗い表情が次第に笑顔の表情へと移ります。
彼らを取り巻く人たちも2分化されています。
利己的な再婚相手の母子、そして『愛ゆえの嘘』に加担するチャオの仲間達・・・
思いやりに欠ける母子の出現がウー・インを人間不信にさせ、
チャオたちとの出会いによって、思いやりと優しい気持ちに触れる事が出来ます。

ラストのチャオの手紙には、思いやりと愛の詰まった嘘の手紙です。
居なくなってしまった人に出す手紙と、死んでしまった人に出すテープの存在が何とも切ないです。
お互いが相手のことを思いやる哀しくもあり心に残るシーンです。
全てがハッピーエンドな終わり方ではありませんが、イー・モウの新たな旅立ちを予感させる希望に満ちた終り方でもあります。

■他人同士なのに親子以上の絆を感じられるハートフルなドラマです。
人間の純粋な気持ちを感じることの出来る、余韻の残る映画です。



少女の髪どめ (2001) 公開(2003)
Baran
★★★★
イラン 1時間36分
監督・脚本マジッド・マジディ
出演ホセイン・アベディニ、モハマド・アミル・ナジ、ザーラ・バーラミ、

本作品は、
2001年2月、ファジール映画祭最優秀作品賞(=イラン)受賞
2001年9月、モントリオール映画祭においてグランプリ、
 キリスト教会審査員賞特別賞を受賞しています。
また、アメリカ国内でも数々の賞を受賞しています。

冬のテヘラン、ある建設現場。
怪我をした父に代わって、女である事を隠して働くアフガン難民の少女。
ふとしたきっかけで少女だと気づいたイラン青年は、たちまち恋に落ちてしまう・・・
建築現場で働く17歳のイラン青年が、アフガン難民労働者の娘に抱く淡い恋心と切なさを描いたラブ・ストーリーです。

イラン国内の劣悪な環境で働かないと生きていけないアフガン難民の人々。
その実態をひしひしと肌で感じることが出来ます。

イラン青年ラティフは、最初は、アフガン人労働者を馬鹿にしていた節がありますが、少女がアフガン人だと分かった途端、今まで抱いていた気持ちは消え去り、彼らに対して同情と温かい眼差しを向けるようになります。
黙々と働く少女を見て、同情と恋愛感情を抱くようになりますが、
その気持ちは、言葉を交わさなくてもただ見つめるだけで満足な愛であり、自分の全財産を工面して渡したお金には、彼の無償の愛を感じることが出来ます。
彼の自己犠牲ともとれる行動には、彼の少女に対する素朴で純粋な愛があります。
何とかして彼女の力になりたい、彼女の喜ぶ顔が観たいと思う切なる気持ちが強く感じられます。

この映画には、主要人物に悪人が出てこないのも魅力です。
建設現場の社長も、ぶつぶつ言いながらも、お金を工面してくれるところにほっとします。

■青年の淡い恋心。
そして、今なお続くアフガン難民の人々の過酷な状況に胸が痛みます。



ジェイ&サイレントボブ/帝国への逆襲 (2001) 公開(2003)
Jay and Silent Bob Strike Back
★★☆
アメリカ
監督・脚本・出演ケヴィン・スミス
出演ベン・アフレック、ジェフ・アンダーソン、マーク・ハミル、エリザ・ドゥシュク

ケヴィン・スミス監督が撮った「クラークス」「モール・ラッツ」「チェイジング・エイミー」「ドグマ」の集大成でもあり、
4作品に登場するサブ・キャラであるジェイ&サイレント・ボブ(監督本人)を主役に据えて描く、楽屋落ち的ネタとパロディ満載のコメディ映画です。

共演陣が華やかで、スミス監督作品の常連ベン・アフレック以外にも、
マット・デイモン、クリス・ロックなど多数出演しています。

ストーリーは、ジェイ&ボブ達が、自分達を利用した映画製作に抗議する為、ハリウッドを目指して珍道中するロードムービーです。
道中、4人組の女泥棒達に利用されたり、警察に追われたりとハプニングが続出。
たどり着いたハリウッドでは、「グッド・ウィル・ハンティング」「スクリーム」などの続編(=架空)の製作現場に乱入します。
クライマックスは、「スター・ウォーズ」のマーク・ハミルとジェイ&ボブとのライトセーバーによる対決です。
スター・ウォーズのファンには懐かしく、堪らないシーンです。

■内輪的ネタばかりなので、過去の作品を知らない人は面白さが半減しそうです。
下ネタギャグ満載なので、苦手な方は注意が必要です(=笑)



人生は、時々晴れ (2002) 公開(2003)
All or Nothing
★★★★
イギリス・フランス 2時間8分
監督・脚本マイク・リー
出演ティモシー・スポール、レスリー・マンヴィル、アリソン・ガーランド、ジェームズ・コーデン、ルース・シーン、ヘレン・コーカー

サウス・ロンドン郊外。
低所得者向け団地で暮らす3家族は、それぞれに問題を抱えています。
一緒に暮らしていても、互いの心はいつしか離れてしまい、毎日が孤独で空虚な日々・・・
それぞれが何かを感じ、家族の絆を取り戻して行くドラマです。

※マイク・リー監督は、本作品もこれまでの作品同様、台本を使わず俳優たちに即興で演じさせています。

変わり映えしない日々の繰り返し。
その中で暮らす家族には、希望も無く、ただ淡々と毎日が過ぎて行くだけ。
楽しいはずの一家団欒の食事も、会話は空しく宙に浮き、やり場のない気持ちが残るだけです。
そんな家族に、あるきっかけで変化が訪れ、わずかな希望の光が差し込みます。

終盤、クライマックスでのフィル(T・スポール)とペニー(L・マンヴィル)の夫婦の会話。
2人のやり取りは、ずっと胸の内にしまっておいた気持ちをさらけ出すシーンです。
言葉一つ一つがリアルで生々しく、重みがあります。

3家族が登場しますが、
その中でも、特にフィルとペニーの家族に重点をおいて描いています。
あとの2家族は、フィルやペニーの同僚であり、何らかの関わりがあります。
それぞれに悩みを抱えていますが、ラストでは何かを得て終わります。

■普通の人々の、ある人生をそっと見つめる映画です。

生きる事に何かを見出したい方にはたまらない一品。
そうでない方には、たまらなく眠気を誘う恐れ有り(=笑)



スコルピオンの恋まじない  (2001) 公開(2002)
The Curse of Jaded Scorpion
★★★★
監督・脚本・出演ウディ・アレン
出演ヘレン・ハント、シャーリーズ・セロン、ダン・エイクロイド、エリザベス・バークレー、ウォーレス・ショーン、デヴィッド・オグデン・スティアーズ

1940年代のNY、
同じ会社に勤務する犬猿の仲の男女が織り成す、ユーモアあふれるコメディ・ロマンス映画です。

豪華出演者によるセリフの駆け引きの妙が楽しいです。
特に、主人公のC.W.ブリッグス(W・アレン)とベティ=アン(H・ハント)による顔を合わせば皮肉を言い合う、軽口と毒舌の応酬は見所あります。
40年代のNYの風景、建物、ファッションが味わえます。
催眠術をかけられたW・アレンの情けない表情と、
インチキ魔術師ヴォルダン(D・O・スティアーズ)の胡散臭さもかなり可笑しいです。

■ウディ・アレンのファンの方はもちろん、そうでない方も楽しめる小気味良い大人の為の恋愛映画です。
観た後、思わずこちらもニヤニヤしてしまう小粋な映画です♪



ストーカー (2002)
One Hour Photo
★★★
監督・脚本マーク・ロマネク
出演ロビン・ウィリアムズ、コニー・ニールセン、マイケル・ヴァータン

郊外の町のスーパーにあるDPE店。
20年来勤める孤独な中年男性店員が常連客に好意を抱き、やがて常軌を逸しストーカー行為に及んでくさまを描いたサスペンスです。

R・ウィリアムズの好演が際立つ作品です。
家族を持たぬ寂しい男性が、ある幸せな家族を愛し自分もその一員になりたいと願い妄想します。
愛に飢えた男が、空想の世界を作り出すしか出来なかった事が、寂しく哀しくもあり、恐ろしさを感じます。
自分の心の隙間を埋める為、やがては他人の人生にまで侵食していく様子は、単なる身勝手と言えるだけではなさそうです。

R・ウィリアムズの悪役では、前作「インソムニア」を遥かに凌ぐ、素晴らしい演技です。
他人に対して優しい好人物でありながら、同時に孤独と暗い面をも持ち合わせる男性を熱演しています。
自分では悪い事をしていないと信じ込んでいる彼に、観ている者はある意味同情しながらも、かなり嫌悪感を抱いてしまいます。

■R・ウィリアムズの顔の表情にしても、例えば笑顔は、今までに見たことの無い不気味な笑顔・・・



スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする (2002) 公開(2003)
Spider
★★★★
フランス・カナダ・イギリス 1時間38分
監督・製作ディヴィッド・クローネンバーグ
原作・脚本パトリック・マグラア
出演レイフ・ファインズ、ミランダ・リチャードソン、ガブリエル・バーン

20数年に渡り精神病院に入院していた男が退院。
少年時代を過ごした町に帰郷し、共同施設(=軽度の精神病患者の施設)で生活を始める・・・
少年時代の忌まわしい記憶がよみがえり、過去の記憶をたどる過程を、
現在の精神状態と織り交ぜながら描いた心理的サスペンス・ドラマです。

原作は、英国の作家パトリック・マグラアの小説「スパイダー」
パトリック・マグラアは今回は脚本も担当しています。

父(G・バーン)が愛人と共謀して母(M・リチャードソン)を殺した事実は、本当なのか思い違いなのか・・・
最後では、一連の出来事が明らかになります。
が、全ては男スパイダー(R・ファインズ)の心のフィルターを通して描かれた映像。
不安定な精神状態の中で、抑圧された記憶は、
男の心の中で虚構世界を作り上げたのかも知れないし、
自分自身の記憶は実は妄想だったのかも知れません。
混沌とした男の心の内面は、
それが真実かどうかなのかは、誰にも分かりません。

過去と現在を行き来する映像は、
男の心の内面を表すかのように、暗く沈んだトーンです。
最初から最後まで同じ色調のダークな画面は、
まるで男の心の中にいるようです。

■ある精神を病んだ男の心の闇を描いています。
冷たく静かなタッチで描かれたこの作品は、
どうしようもない恐怖にとらわれます。
観ている者には男の心理を理解しようと努めますが、
それは不可能なことだと分かります。
始終何かに怯えた孤独な男を、レイフ・ファインズが好演しています。
心に闇を持つ男を描いた作品としては、前作「レッド・ドラゴン」と続き2本目です。



戦場のピアニスト (2002)
The Pianist
★★★★☆
監督ロマン・ポランスキー
原作ウワディスワフ・シュピルマン
出演エイドリアン・ブロディ、トーマス・クレッチマン、フランク・フィンレイ、モーリーン・リップマン

2002年 第55回カンヌ国際映画祭パルムドール賞受賞

実在するポーランドの名ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの回想録を元に描いた感動ドラマです。
1939年9月、ナチス・ドイツ軍が、ポーランドに侵攻した日から撤退するまでの長く苦しい恐怖の歳月を映画化しています。

前半部分は、ドイツ軍によるポーンランド侵攻・占領、そしてユダヤ人迫害・弾圧の事実を忠実に再現しており、
中盤以降は、シュピルマン(A・ブロディ)がドイツ軍から逃れ、知人を頼って隠れ過ごす日々を描いています。
壁一枚隔てた現実と、主人公の生死に関わった周囲の人々・・・
戦火の下の恐怖の日常を描いています。

知的なピアニストが生き延びる為、泥まみれになりながら食料と寝る場所を探して生き抜く生き様は、戦争が起きる前とはまるで別人のようです。
同時に、人間が極限下で生き延びる強さと運のようなものを感じます。
終盤、静寂の廃屋、瓦礫の中でシュピルマンがピアノを弾くシーン・・・
ドイツ将校の前で、紙一重の生死を感じながらも弾く緊張感あふれる姿は、それまで生きる為だけだった人間が、ただ演奏する喜びのみを感じ、一気に芸術の域に達したピアニストを描いています。
素晴らしいクライマックスです。

冷酷なナチス・ドイツ軍の中にも人間性を感じさせる人物を登場させたり、
同じユダヤ人の中にも冷酷な悪を思わせる人間を描いているところが、この映画をさらに深みのある素晴らしい映画にしています。

■目を背けたくなるシーンもありますが、必要以上な過激シーンを抑えてあり、全体的に力強さを根底に静かな演出となっています。
戦争の恐ろしさ、ユダヤ人迫害の事実を知る為にも、
是非、たくさんの人に観て欲しい作品です。



ソラリス (2002) (2003)
Solaris
★★★
アメリカ 1時間39分
監督・脚本スティーヴン・ソダーバーグ
原作スタニスワフ・レム
出演ジョージ・クルーニー、ナターシャ・マケルホーン、ジェレミー・ディヴィス、ヴィオラ・ディヴィス

原作は、ポーランドのSF作家スタニスラフ・レムのベストセラー長編小説「ソラリスの陽のもとに」
1972年にアンドレイ・タルコフスキー監督により「惑星ソラリス」として映画化されています。

惑星ソラリスを探索する宇宙ステーションからの救助依頼を受け、心理学者クリス(G・クルーニー)が調査に訪れます。
そこで、クリスは、自殺した妻レイア(N・マケルホーン)の姿と出会い、困惑します・・・
人間が心の奥底に秘めている想いと、その想いの持つ力強さを表現し、描いたドラマです。

自らが生み出した妻の幻影に、最初は戸惑い苦しみますが、次第に、彼女との新しい再出発を願います。
ソラリスの海が放つ幻影と知りつつ、彼女への想いに取り憑かれ、断ち切れずに苦しむ男。
ソラリスの海は、まさに自分の心を映した鏡なのです。

人を愛すること、死んだ者への想い、後悔、償い・・・
人間の本質的な事を突いた疑問を投げかけています。

■タルコフスキー監督の名作のリメイクです。
それぞれの作品を比較するのも良いのですが、固定観念に縛られた先入観を捨てて楽しみたいものです。
自分的には、原作、オリジナルは未見です。
哲学的な意味合いが含まれていて難解だそうですが、そこまでの洞察力無し・・・涙

熱いラブシーンありー♪
ラブ・ロマンスの色合いが強い、ロマンティックなSF映画でもあります。



ダークネス (2002)
Darkness
★★☆
監督ジャウマ・バラゲロ
出演アンナ・パキン、レナ・オリン、イアン・グレン、ジャン・カルロ・ジャンニーニ

父の静養の為、アメリカからスペイン郊外の森の中の一軒家に引越しして来た家族。
一家に襲いかかる不可解な現象と恐怖を描いたサスペンス・ホラーです。

この映画の主役は闇であり、人間の持つ闇への恐怖を描いています。

屋敷には得体の知れない何かが取り憑いており、徐々に父親マーク(I・グレン)が精神のバランスを崩し不安定になって行きます。
40年前の子供たちの失踪事件との関連を暗示させ、
ヒロイン、レジーナ(A・パキン)が謎を解き明かし
真相に迫るストーリー運びです。
屋敷全体を覆う闇と、ダークな色調・・・
過去の血の惨劇を暗示するフラッシュ・バックの映像は、
観る者に、何かを想像させ、あるものの気配を感じさせます。

■ほどほどに緊迫感があるホラー映画ですが、
消化不良の感があり、すっきりしない印象が残ります。
前半は、全貌が見えない恐怖感がありますが、
後半になり、悪の存在がハッキリすると、怖さが一気に失速して行きます。



ダブル・ビジョン (2002) 公開(2003)
Double Vision
★★★
香港・台湾・アメリカ 1時間49分
監督・脚本チェン・クォフー
出演レオン・カーフェイ、ディヴィッド・モース、レネ・リュウ、レオン・ダイ、ヤン・クイメイ

台北で起きた猟奇的連続殺人事件。
台湾警察の刑事は、FBIのプロファイリング専門である捜査官と共に、数々の不可思議な現象と遭遇し事件の核心に迫ります。
道教の『5つの地獄』をモチーフに、東洋的なミステリアス・ホラーを描いたサイコ・サスペンスです

東洋思想である道教に、アメリカでの捜査実績を持つFBI捜査官(D・モース)が加わることで、ある種の違和感が漂い、さらに奥深いものになっています。
地元の刑事(L・カーフェイ)には家族への葛藤があり、悩み苦しみながら事件に関わって行きます。

近代的なビルの中に収められている、発掘された古びれた道教の寺。
最先端の建造物の中にある、古びた寺とのミスマッチもさることながら、
その中で繰り広げられる警察官とカルト信者との死闘は、まるで地獄絵図を見ているようです。

■最後まで解明されない謎が残ります。
謎が残ったままなので、消化不良のところも。
猟奇的殺人ですが、どちらかと言うとオカルト要素の強い作品です。



小さな中国のお針子  (2002)
Balzac et le petite tailleuse Chinoise
★★★★
監督・脚本・原作ダイ・シージエ
脚本ジャン・マリー・ドルージュ
出演ジョウ・シュン、チュン・コン、リィウ・イェ、ワン・シュアンバオ

2002年、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門オープニング作品

1971年、文化大革命の最中、四川省の鳳凰山という山中の村が舞台。
17歳と18歳の知識青年が、山奥の村に再教育の為送り込まれ、
美しいお針子と出会い、そして別れを描く青春ドラマです。

湖南省の雄大なロケ地を背景に、マー(リィウ・イェ)の奏でる美しいバイオリンの旋律が自然に溶け込んで行きます。
2人の青年は、文化大革命の犠牲者ともとれる境遇ですが、スクリーンからは、暗く陰湿なイメージは感じられません。
所々にユーモアを挟み明るい、爽やかな仕上がりになっています。

外国の小説をお針子に読み聞かせることにより、西洋文学に触れた少女は、新しい世界を知り自らの力で人生を歩いて行こうとしています。
ある意味、女性の自立の物語ともいえる作品です。

ラストの、ダム開発の為、鳳凰山の村が水底に沈んでいくシーンは印象的です。
お針子(ジョウ・シュン)のミシンと香水の瓶が水に浸かり漂う水中で、バイオリンを弾くマーと小説を読み聞かせるルオ(チュン・コン)とそれを聞くお針子・・・
2人の青年の想いでは、お針子への愛と共に深い湖の底にいつまでも漂い続ける・・・といったことを感じさせるシーンです。

■文化大革命当時の下放政策の実態を知ることが出来ます。
壮大な中国の大自然と、3人の恋と青春の思い出・・・
涙が出るといった感動作ではないのですが、胸にじーんとくる余韻があります。



デアデビル (2003)
Daredevil
★★★
アメリカ 1時間43分
監督・脚本マーク・スティーヴン・ジョンソン
アクション指導ユエン・チュンヤン
出演ベン・アフレック、ジェニファー・ガーナー、マイケル・クラーク・ダンカン、コリン・ファレル

原作はマーヴル・コミックスの「デアデビル」
「スパイダーマン」と同じ出版社であり、原作では時々共演しています。

昼は盲目の弁護士、夜は法で裁ききれない悪を成敗する「デアデビル」として活躍するヒーローを描いたアクション映画です。

この作品の「デアデビル」は「スパイダーマン」同様、血肉の通った生身の人間であり、ヒーローに徹することで悩み苦しみます。
等身大のヒーローは身近に感じられ共感を覚えます。
格闘シーンは、「マトリックス2・3」を兄ユエン・ウーピンと共に取り組むユエン・チュンヤン。
アクションシーンは、超感覚はあるにしろ、「スパイダーマン」のように超人的な能力がある訳ではありません。
比較すると、ワイヤーアクションや攻撃性は低いのですが、その分、生身の格闘シーンが増えています。

キャスティングが個性的です。
主人公のマット(B・アフレック)は盲目の悩めるヒーローを、
ブルズアイ(C・ファレル)は手裏剣の達人で切れやすいアブナイ極悪人を時としてユーモアを交えながら演じています。
悪の組織の親分キングピン(M・クラーク・ダンカン)に至っては、マットの宿敵として明るささえ感じさせる悪人です。
脇を固める新聞記者ベン・ユーリック(J・バントリアーノ)、フランクリン・ネルソン(J・ファヴロー)など、上手い位置で主人公に関わっています。

■アメコミの映画化なので子供向きと捉えがちですが、どちらかというと大人向きの映画です。
エンド・ロールの最後まで観て下さい。
重要な部分が残っています。



デブラ・ウィンガーを探して (2002) 公開(2003)
Searching for Debra Winger
★★★
アメリカ 1時間37分
監督・脚本・出演ロザンナ・アークエット
出演パトリシア・アークエット、エマニュエル・ベアール、カトリン・カートリッジ、ローラ・ダーン、ジェーン・フォンダ、ウーピー・ゴールドバーグ、メラニー・グリフィス

女優ロザンナ・アークエットの初監督作品です。
一児の母であり女優であるロザンナ・アークエット。
「愛と青春の旅立ち」のデブラ・ウィンガーの突然の引退に疑問を持ち、彼女を探してインタビューする事を決意します。
仕事と子育ての両立に悩むロザンナは、その他、第一線で活躍するトップ女優34人にインタビューを行います。
プライベートと仕事、キャリア、子育てなど、女優たちの人生観をさり気なく引き出し、本音で語る異色のドキュメンタリーです。

2002年、カンヌ国際映画祭特別招待作品です。

彼女たちは、ハリウッドの女優という特殊な職業ですが、その悩み事は一般の働く女性たちにも共通する事柄です。
ある年齢に達すると仕事が激減したり、容姿で採用を決められたり、
とりわけ仕事と家庭のバランスを保つのは誰もが頭を悩ます問題です。
インタビューで明らかになる、ハリウッドの女性に対する数々の軽視・・・
ハリウッドの知られざる裏側を見た感じです。

普段、素顔を見せないトップスターたちが、気取らず率直に本音を語っています。
ロザンナ・アークエットに対する信用と信頼感が感じられます。

■たくさんの女優たちが出演していますが、とりわけ、「まぼろし」のシャーロット・ランプリングが輝いています。
ハリウッドとフランス映画界の取り組み方の違いを感じます。

女優による女優へのインタビューは、新鮮で興味深いものがあります。
しかし、延々と続くインタビュー。
興味ある人には楽しめますが、そうでない人には苦痛の1時間37分です。



ドリームキャッチャー (2003)
Dreamcatcher
★★☆
アメリカ 2時間15分
監督ローレンス・カスダン
出演モーガン・フリーマン、トーマス・ジェーン、トム・サイズモア、ジェイソン・リー、ダミアン・ルイス、ティモシー・オリファント

原作は、スティーヴン・キングの同名ベストセラー小説。

アメリカ、メイン州で育った仲良し幼なじみ4人組。
少年時代にいじめられっ子を助けたことから不思議な能力を身につけた彼らは、やがて大人になり、その能力ともう一人の人物の助けを借りて、地球の危機を救う・・・
超能力の存在と、異星人来襲を描いたサスペンス・ホラーです。

異星人来襲が話の軸となっています。
4人組のそれぞれが持つ超能力と、彼らの過去が深く関わっており、
異星人対策の軍の方針や軍内部の葛藤を絡めながら、
ストーリーは進みます。

単なる異星人との闘いのみに終始しておらず、
4人組の男の友情と彼らの固い絆が重要なエッセンスになっています。
少年時代のエピソードをノスタルジックに描き、
雪に覆われた山荘での惨劇、異星人のグロテスクな演出、
そして軍の司令官の狂気に近い行動・・・・
いろいろな話を盛り込み、混沌としたまとまりの無い作品になっています。

■原作を読んで無いので、映画を観た限りでは、
ここまで散漫になったのは、原作を活かし切れず脚本に問題があったとしか思えません。
CM等の宣伝が、妙に上手く、
不可思議な何とも言いようの無い作品です。



ニューヨーク 最後の日々 (2002) 公開(2003)
Pepole I Know
★★★
アメリカ 1時間40分
監督ダン・アルグラント
出演アル・パチーノ、キム・ベイシンガー、ライアン・オニール、ティア・レオーニ

ニューヨークを舞台に活躍するパブリシスト(=宣伝マン)の姿を描きます。
ベテラン・パブリシストの男イーライ(A・パチーノ)が、長年のキャリアを締めくくる最後の仕事として、慈善パーティを企画。
各界の著名人・芸能人を招待する重要なパーティに奔走する、ある特別な一日を追って行きます。
新進女優(T・レオーニ)の変死事件、自身の恋の行方を絡めながら描いたサスペンスタッチの社会派ドラマです。

パブリシストとは、政治家、芸能人とマスコミとの間を橋渡しする仕事です。
昼夜関係なく働き、ただひたすら走り続けて来た男。
ヘビースモーカーで、クスリを絶えず飲用し、どこか乱れたスーツ姿・・・
精神的にも肉体的にもくたくたに疲れきった男の姿があります。
華やかなショービジネスの表と裏を知り尽くした男の半生が伺えます。

■特にストーリー的には目新しいものはありませんが、「インソムニア」を思い出させる憔悴し切ったアル・パチーノの演技が素晴らしいです。
初老の域に達した男の哀愁が感じられます。
ファンには溜まらない一品です。

ラストは途中で読めてしまいますが、アル・パチーノの演技を堪能すると思えば良しー♪



ネメシス/S.T.X (2002) 公開(2003)
Nemesis:S.T.X
★★★
アメリカ 1時間57分
監督スチュアート・ベアード
出演パトリック・スチュアート、ブレント・スナイパー

1979年から作られた劇場版『スター・トレック』シリーズの第10作目作品。

惑星連邦と長年対立関係にあるロミュラン帝国。
政変交代による新たな指導者シンゾン(T・ハーディ)は、実は、ピカード艦長(P・スチュアート)のクローン人間であり・・・
ピカード艦長と自分のクローンであるシンゾンとの運命的な対決を軸にして、艦隊同士のバトルを壮大なスケールで描いてます。

前半は、物語の筋を追っているのでやや面白味に欠ける部分があります。
が、後半は一転して、エンタープライズ号と敵艦シミター号との迫力あるバトルが繰り広げられるので、観ている方は緊張感に包まれ見応えあるものになっています。

■シリーズ物なので、過去の作品を観ている方が人間関係などの面白さが堪能できます。
ただ、この作品のみでもストーリーは充分理解でき、それなりに楽しめます。



灰の記憶 (2001) 公開(2003)
The Gray Zone
★★★☆
アメリカ 1時間49分
監督・脚本ティム・ブレイク・ネルソン
出演ディヴィッド・アークエット、スティーヴ・ブシェミ、ハーヴェイ・カイテル、ミラ・ソルヴィノ、ナターシャ・リオン

第二次世界大戦末期、1994年。
アウシュビッツ強制収容所。
ゾンダーコマンド(=特別労務班)たちの、任務と良心との間で葛藤し苦悩する姿と、
ガス室で奇跡的に生き残った少女の命を救おうと奔走し、やがて武力による反乱に至る経緯を描いたヒューマン・ドラマです。
事実に沿った物語です。

※ナチ絶滅収容所には、ゾンダーコマンド(=特別労務班)と呼ばれるユダヤ人たちがおり、食事などの特別待遇と4ヶ月の延命とを引き換えに、ユダヤ人たちをガス室に送り、死体を処理する仕事に従事していました。
※アウシュビッツで人体実験などをしていたハンガリー系ユダヤ人医師ミクロシュ・ニスリの手記を元に、監督ティム・ブレイク・ネルソンが書き上げた舞台「Gray Zone」がオビー賞を受賞、それを映画化したものです。

リアルな映像です。
実際の図面から起こした建物、一直線に並ぶ煙突、
ユダヤ人を運ぶ列車、
そして、青々とした芝生に延々と続くユダヤ人の列の先には、ガス室への入り口が・・・
銃殺シーンなど直接的な映像もありますが、
ガス室から聞こえる人々の断末魔や、壁を激しく叩く音、
工場から聞こえる低くうなるような音や、
焼却炉から絶え間なく噴出す煙は、死体を焼却する暗示であり、
鮮血の付いた壁を洗う作業に至っては、
観ている者にいやでも「死のイメージ」を連想させます。

ゾンダーコマンダーたちや、家族の命と引き換えに人体実験を繰り返していたユダヤ人医師ミクロシュ・ニスリ、
人間としての誇りを失わんと悩み、葛藤する姿が伝わって来ます。

■出来れば避けて通りたいテーマですが、勇気を出して是非観ておきたい作品です。
救われない映画ですが、勇敢に立ち向かって行った人々の気持ちに胸が熱くなります。
あまりに悲惨で、涙が出ないほどです。

PG−12指定。文部科学省選定作品。



裸足の1500マイル (2002)
Rabbit-Proof Fence
★★★★
監督・製作フィリップ・ノイス
原作ドリス・ピルキントン
出演エヴァーリン・サンピ、ローラ・モナガン、ティアナ・サンズベリー、ケネス・ブラナー

先住民アボリジニの隔離・同化政策による事実(=混血児を家族から離し、白人化教育を受けさせる)を元にしたヒューマンドラマです。
1931年のオーストラリア。
強制的に収容された少女3人モリー、グレイシー、デイジーが、オーストラリアを横断する『ウサギよけフェンス』沿いに伝って歩き、1500マイル(2400キロ)の道のりを90日間かけて歩き続けて母に会いに行った真実の物語です。

原作は、ドリス・ピルキントン。
少女モリーの娘が母の物語として執筆したノンフィクションです。

善意の上に成り立つ差別と偏見を描いています。
教育という名の元に行われている政策が、実は、白人社会に適応すべき人材を育てる(=悪く言うと、白人社会に奉仕する労働力欲しさ)という実態にすり替えられていることも真実です。

アボリジニ保護局の局長ネビル(K・ブラナー)を始めとして、施設の職員、追跡人など、誠実に取り組んでいる事が、結果、非人道的になっています。
善意の上で行っている過ちなので、本作では、管理する側を全くの悪人としては描いていません。

母を想いひたすら歩き続ける少女たちの姿に、思わず涙がこぼれます。
運動靴が擦り切れ、服もぼろぼろになってまで歩いた彼女たちに、人間の人権、尊厳について考えさせられます。

■1970年代まで続いたアボリジニの人々への過酷な政策の実際が分かります。
是非、子供から大人まで全ての人に観て欲しい感動のドラマです。
主役の3人の少女は、演技に関して全くの素人です。
澄んだ瞳と自然体の演技も、この映画を成功に導いています。



 春の惑い (2002) 公開(2003)
Springtime in a Small Town
★★★☆
監督ティエン・チュアンチュアン
出演フー・ジンファン、ウー・ジュン、シン・バイチン、ルウ・スウスウ

本作品は、2002年、ヴェネチア国際映画祭コントロコレンテ部門、グランプリを受賞しています。
田壮壮(=ティエン・チュアンチュアン)監督の10年ぶりの新作映画であり、中国初のリメイク作品です。
オリジナルは、フェイ・ムー監督、1948年製作「小城之春」

1946年、中国、蘇州。
終戦直後の荒廃した中国。戦火を免れた没落名家を舞台に、
妻と夫、そして夫の友人であり妻の元恋人である訪問者を交えて織り成す心模様を描いたラブ・ロマンス映画です。

そこだけ時が止まったような静かで広大なお屋敷に、突然の訪問者によって、小さなさざなみのように波紋が広がります。
いわゆる男女の三角関係です。
とてもシンプルなストーリーの中に、
主に登場人物の眼差しや、視線、ちょっとした仕草や小物使いなどで、観ている方に、想像させ、感じさせる設定となっています。
言葉は最小限に留めています。
特に、妻の揺れ動く気持ちの心理の変化を丁寧に描いています。
登場人物が5人しか登場せず、主に屋敷内でストーリー展開される設定は、舞台を思わせます。

この映画は、5人の人物にそれぞれ役割を与えています。
それぞれの置かれた状況や考え方、心情(=没落した鬱気味な名家の若主人、上海で医者を務める進歩的な友人、今の状況に妥協し平穏な日々を暮らす妻・・・等)
あたかもそれは、その当時の混沌とした中国であり、
進む方向を模索していた国内事情を表しているともいえます。

■繊細な丁寧な描写に見入ってしまいます。
ただ、スローテンポな展開に、人によっては退屈に思えるかも知れません。
前半はやや眠気の襲われる感あり。
後半からラストにかけては、一気に話が膨らみます。



 バティニョールおじさん (2002)
Monsieur Batignole
★★★★
監督・脚本・出演ジェラール・ジュニョ
出演ジュール・シトリュック、ミシェル・ガルシア、ジャンポール・ルーヴ

1942年の夏、ドイツ占領下のパリ。
肉屋兼総菜屋を営むバティニョール(G・ジュニョ)は、ふとしたきっかけで、ユダヤ人の子供達をスイスまで連れて行くことになり・・・
その行動を通じて子供シモン(J・シトリュック)も彼も成長して行く、
逃亡劇の要素を含んだ感動のヒューマンドラマです。

不本意ながらもナチスの手助けをする事になったバティニョールが、その状況に甘んじながらもドイツ軍を疎む気持ちを描いています。
さらに、ユダヤ人の子供の逃亡を手助けするハメになった困惑と戸惑い・・・
子供の両親を見殺しにしてしまった自責の念にかられて行動に出る訳ですが、
最初は自身を守る為の保身で匿っていたのが、いつしか彼らを救う為だけに奔走する姿に温かいものを感じます。
シモンのバティニョールに対する想いも、憎むべき相手であり、恩人でもある複雑な気持ちを、時にはわががまという表現で上手く表しています。

占領下におけるナチの被害者でもあり共犯者でもあった普通の人々の気持ちを、ステレオタイプでなくいろいろな角度から描いているところが興味深いです。
口が達者な、あわよくばナチの恩恵に与りたいバティニョール婦人。
対独協力者である婚約者を軽蔑しながらも交際している娘・・・
逃亡中に手を差し伸べ、力を貸してくれた人々・・・
戦争時という異常な事態の中、本来の人間像に迫る人間模様を描いた作品でもあります。

■まさに、オヤジの奮闘振りを描いた頼もしく愛らしい作品!
戦争、子供・・・といった要素がありながら、変にお涙頂戴映画になっておらず淡々としている所が良いです。
コメディ仕立ての感動作。



パイラン (2001) 公開(2003)
Failan
★★★☆
韓国 1時間56分
監督ソン・ヘユン
原作 浅田次郎
出演チェ・ミンシク、セシリア・チャン

原作は、浅田次郎の短編集「鉄道員(ぽっぽや)」に収められた小説「ラブ・レター」です。
韓国のスタッフ・キャストによる再映画化は、舞台を韓国に置き換え、脚色されています。
第4回ドーヴィル・アジア映画祭、最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞、観客賞などを受賞しています。
他、第22回青龍賞、第39回大鐘賞などにおいても数々の賞を受賞しています。

主人公イ・カンジェ(チェ・ミンシク)と偽装結婚した薄幸の少女パイラン(
セシリア・チャン)
お互い会話することも無く終わって行った、切なくも哀しい愛を描いたラブ・ストーリーです。

前半は、40過ぎの冴えないチンピラ男の風景を追っています。
ボスからは疎まれ後輩には馬鹿にされる・・・
何かにつけて怒りいきがる男はとても情けなく、社会の底辺を這いずっている様子が伝わって来ます。
中盤以降は、パイランの存在によって変わって行く男の心情が綴られています。
愛されている事を知った時の驚きと戸惑い。
女性の一途な愛を知った時、男の心にさざ波のように波紋が広がり、
今までの自分を振り返り、自分自身を見つめ直すことが出来たのです。

■切なくも哀しい愛の物語です。

前半の男の描写がリアルです。
とてつもなく惨めでどうしようもないエピソードで綴られています。
あきれ果てるシーンあり。



ピノッキオ (2002) 公開(2003)
Pinocchio
★★☆
イタリア・アメリカ 1時間51分
監督・脚本・出演ロベルト・ベニーニ
出演ニコレッタ・ブラスキ

原作は、カルロ・コッローディの「ピノッキオの冒険」

原作にほぼ忠実なストーリー展開です。
美術的にも、その当時の衣装など見るべきものはあります。

ベニーニのピノッキオは、51歳とは思えないパワーでスクリーンを所狭しと駆け回り、ハイテンションな演技と会話など、ベニーニ流のピノッキオで見せてくれます。
人を信用し騙されるほど愚かで純粋であり、
約束を破ったり嘘を付いたりすることもあるけれど、
自由で好奇心溢れるピノッキオは、いたずら小僧そのものです。
ただ、ベニーニの演ずるピノッキオには、違和感を感じられるのも事実です。
51歳の男がピノッキオを演ずる事自体に無理を感じるか、
身体全体を使って表現するベニーニのピノッキオの世界に浸れるか、
観る人によってかなり評価が分かれるのではないでしょうか。

■ファミリー向けの映画という設定ですが、大人向けのファンタジーと見た方が良さそうです。
ピノッキオを始め子供の役など全てのキャスティングを大人が演ずるのも、子供向けにはどうかと思います。



ビロウ (2002)
Below
★★☆
監督デイヴィッド・トウーヒー
出演マシュー・デイヴィス、ブルース・グリーンウッド

第二次世界大戦下、1940年。大西洋。
アメリカ軍潜水艦タイガー・シャークが、遭難者3名を救助したことから起きる不可解な出来事を描いた異色のサスペンス・スリラーです。

遭難した女性を救助したことから、
『潜水艦に女性を乗せると縁起が悪い・・・』という言い伝えがもたらす、艦内に漂う不吉な予感。
冒頭は、やや不吉なムードでの滑り出しです。
前半部分は、潜水艦内での敵国のスパイ探し、
そして、前艦長の死を巡るミステリー要素へと発展して行きます。
後半においては、艦内に忍び寄る怪奇現象の全ての原因が、前艦長の死に関係している事が分かります。

全体的に中途半端な印象を受けます。
サスペンス、ミステリー、オカルト映画、いろんな要素を盛り込んでいるのですが、活かしきれてないようです。

潜水艦での息苦しさと逃げ場の無い恐怖、そして犯人探し・・・
ドイツ軍の攻撃、艦内の故障による不測事態の連発、
混乱した状態の潜水艦での極限状態を上手く表しています。

■ほどほどに良く出来たB級ホラー映画です。
残酷・残虐シーンは殆ど出て来ないので、怖がりさんでも安心♪
キャスティングが地味めで華が無いのも残念です。



フィアー・ドット・コム (2002)
Fear dot com
★★☆
監督ウィリアム・マローン
出演スティーヴン・ドーフ、ナターシャ・マケルホーン

アクセスした人は皆全て48時間後に死んでしまうという恐怖のインターネットサイト『フィアー・ドット・コム』
人々が次々と変死する謎を追うNY市警の刑事と保険局員が体験する戦慄の恐怖を描くサイコ・サスペンスホラーです。

監督が「TATARI」のウィリアム・マローンである通り、ドクターによる冷酷で残忍な犯行は、残酷であると共に残酷描写の美をも感じさせます。
雨の降りしきるうっとおしいダークな街並みは「セブン」を思い出させ、
ストーリー的には邦画の「リング」「回路」を連想させます。

ストーリーの半分が霊による超常現象であり、半分が生身の人間による冷酷なサイコ的殺人です。
2つの異なった話が平行して描かれ、ラストで一つに結びつく展開です。
それぞれが全く異なった性格の恐怖である為、相乗現象を起こし怖さが半減してしまったように思えます。

■PG−12指定です。
保護者同伴でもお子様にはお勧め出来ません。
殺人による残酷シーンが何度も登場します。
霊的現象によるホラー描写の方はあまり怖くはありません。



ふたりのトスカーナ (2000) 公開(2003)
Il cielo cade
★★★★☆
監督アンドレア&アントニオ・フラッツィ
原作ロレンツァ・マッツェッティ
出演イザベラ・ロッセリーニ、イェルーン・クラッベ、ヴェロニカ・ニッコライ、ラーラ・カンボリ

2000年、ジッフォニ青少年映画祭金賞(最優秀賞)受賞
その他、多受賞しています。

原作は、Il cielo cade (天[空]が落ちてくる)
1961年に発表されたイタリアの女流作家ロレンツァ・マッツェッティの自伝的小説であり、イタリア三大文学賞の一つであるヴィアレッジョ賞を受賞しています。

1943年、夏。イタリア・トスカーナ地方。
第二次世界大戦下、両親の死によって伯父夫婦の家に引き取られた幼い姉妹。
2人が体験するユーモア溢れるひと夏の出来事と、その後に起きる戦争の悲劇を描いた真実を元にしたドラマです。

前半は、両親を亡くした姉妹が、新しい家族に溶け込むまでの数々のエピソードと、仲間たちと遊ぶ楽しい夏の日々を、
後半は一転して、ドイツ軍による侵攻と屋敷内の占領、
そして、ナチス親衛隊による家族惨殺、終戦へと続きます。

前半があまり輝きに満ちた時間だったので、
後半のドイツ軍侵略から始まる一家に忍び寄る戦争の恐怖は、
前半の情感豊かに表現した明るさと後半の悲劇の落差があまりに激しく残酷です。

劇中では、一家がドイツ系ユダヤ人でアインシュタインの親戚である事実は、観客には最後になるまで明らかにされません。
屋敷の使用人、町の人々、そして屋敷に駐留していたドイツ兵たちも一家に対して敬意を払っていたように見受けられます。
人々全てがユダヤ人迫害に加担していた訳ではない、という事実でもあります。
一貫して、姉妹の子供の目を通して描かれています。
子供の視点から見たストーリー展開なので、社会の様子や戦争の悲惨さなどは、子供世界の独自の表現を用いています。

■第二次世界大戦下のイタリアの田園都市に起きた悲劇。
ナチス・ドイツのユダヤ人迫害の話ですが、過激な残酷シーンは出てきません。
子供から大人まで是非、観て欲しい作品です。



ブラック・ダイヤモンド (2003)
Cradle 2 the Grave
★★★ (ジェット・リー素敵度★★★☆)
アメリカ 1時間45分
監督アンジェイ・バードコウィアック
出演ジェット・リー、DMX、アンソニー・アンダーソン、ケリー・フー

アジアの犯罪組織と、アメリカのギャング、そして、強盗グループと手を組んだ台湾の捜査官が『ブラック・ダイヤモンド』を巡って激しい攻防戦を繰り広げます。
三つ巴の闘いを描いたアクション映画です。

アンジェイ・バードコウィアック監督の「ロミオ・マスト・ダイ」(=主演ジェット・リー)、「DENGEKI/電撃」(=出演DMX)と同じような構成の映画です。

作品の本筋は、ダイヤを奪還する三つ巴の闘いですが、
ジェット・リーのカンフー・アクションと、DMXの誘拐された娘を取り戻す親子の愛情が話の要になっています。
ジェット・リーのカンフーは相変わらず素晴らしいのですが、
こま切れの編集とストーリーの煩雑さに埋もれてしまっていて、
カンフー独特の美しさや持ち味を活かし切れてないのが残念です。

ストーリー的にはかなり無理があります。
スピード感あふれる演出と、派手なカーアクション、
戦車を使って繰り広げられる銃撃戦、
ビルを手づたいで下りていく危険なシーンなど、見所はたくさんあります。
全編を通してアクションシーン満載のこの映画は、観ていて飽きる事はありません。
ただ、個々のエピソードが浅くなっていて、
結果的に、感動や印象が残らなくなっています。

■ジェット・リーのカンフーをそこそこ楽しみ、気軽にアクションシーンを楽しむ映画です。



ブラッディ・マロリー (2002) 公開(2003)
Bloody Mallory
★★☆ (お馬鹿度★★★☆)
監督ジュリアン・マニア
出演オリヴィア・ボナミー、アドリア・コラド、

超常現象特殊部隊のメンバーが、悪魔崇拝の教団に立ち向かう姿を描く痛快アクション・ホラー映画です。
メンバーは、それぞれに個性に溢れていて、武術の達人、爆発物専門家、サイコキネシストの3人から構成されてます。

アクション、ストーリー構成、特殊効果などスピード感あふれる展開ですが、泥臭さは否めません。

所々で、某映画のパロディとみられる部分があります。
また、マニア監督は、日本のアニメと漫画に傾倒しており、
随所にマンガの要素を取り入れられています。
劇画タッチの感があるホラー映画となっています。

■ホラー映画ですが、全く怖さはありません。
お馬鹿映画です。
ストレス解消に最適です。



ブリー (2002) 公開(2003)
Bully
★★☆
アメリカ 1時間56分
監督ラリー・クラーク
原作ジム・シュッツ
出演ブラッド・レンフロ、レイチェル・マイナー、ニック・スタール、ビジョウ・フィリップス、マイケル・ピット

1993年に実際に起きた事件を元に映画化されました。
この事件は、10代の殺人事件として全米で大きな衝撃を与えました。
原作は、ジム・シュッツのルポルタージュ
  「なぜ、いじめっ子は殺されたのか」

1993年7月14日、南フロリダ。
乱暴ないじめっ子が、幼なじみの友人など7人のティーン・エイージャーによって殺害されます。
幼なじみとその恋人が、他の人を巻き込んで殺害を計画、実行する経緯をリアルに描いた実録的犯罪ドラマです。

少年少女たちが、いとも簡単に殺人を計画、実行に移す様子は、
良識ある人間としてはとても理解しがたいものです。
若者たちは、集団ヒステリー的な心理状態によって盛り上がり、
ごく簡単に、気軽に楽しみながら殺人に加担していったと思われます。
殺人事件を起こしてからの彼らの心の葛藤や、他人への罪のなすり合いなどは、安易な殺人を起こした浅はかな行動の結果として見てとれます。

■他のサスペンス・スリラーよりも映像的な衝撃度は少ないのですが、
実話を元にした作品なので、それ以上に強い嫌悪感と後味の悪い映画となっています。
人間の心の弱さや殺人に至る心理状態を知る上で、観ておいて損は無い映画です。

これらからの注目株の若手スターがたくさん出ています。



ブロンドと柩の謎 (2001) 公開(2003)
The Cat's Meow
★★★
アメリカ 1時間45分
監督ピーター・ボグダノヴィッチ
出演キルスティン・ダンスト、エドワード・ハーマン、エディ・イザード、ケイリー・エルウィズ

1924年、米国の新聞王W・R・ハースト主催の豪華客船パーティで起きた「オネイダ号事件」
事件を元に、大胆な仮説を立てて映像化したミステリー・サスペンスです。

W・R・ハースト(E・ハーマン)、ハーストの愛人である女優マリオン・ディヴィス(K・ダンスト)、喜劇王チャールズ・チャップリン(E・イザード)、映画プロデューサーのトーマス・インス(C・エルウィズ)など、15人のセレブリティたちが集うパーティで殺人事件が起こります。
前半は、主に登場人物の紹介です。
(=登場人物は、それぞれ詳しく調査し、忠実に再現しているそうです)
それぞれの恋愛や野心が交錯する複雑な人間模様を描いています。
事件に至るまでが、ややスローテンポに感じられますが、
中盤以降、ラストにかけては一気にストーリーが展開して行きます。

20年代の女優たちのファッションも見所です。
クラシカルでゴージャスなファッションは見ているだけで楽しいです。

■当時、ハリウッドの2大ミステリー(=一つはマリリン・モンローの死)と言われたこの事件、興味深いものがあります。

キルスティング・ダンストは少々違和感ありです。



ヘヴン (2001) 公開(2003)
Heaven
★★★★
アメリカ・ドイツ・イギリス・フランス
監督トム・ティクヴァ
脚本クシシュトフ・キェシロフスキ、クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
出演ケイト・ブランシェット、ジョヴァンニ・リビーシ、レモ・ジローネ

1996年に他界したポーランドの巨匠クシシュトフ・キェシロフスキの遺稿脚本を映画化しています。
ダンテの「神曲」をモチーフにしており、
3部作(Heaven Hell Purgatory:天国 地獄 煉獄)の内の第一部「天国」にあたります。

イタリア、トリノ〜トスカーナが舞台です。
英語教師フィリッパ(C・ブランシェット)と刑務官フィリッポ(G・リビーシ)の運命的な出会いと、愛の世界へと向かう逃避行を静かに力強く描いたラブ・ストーリーです。

破滅に向かう逃避行ですが、ドロドロとした感じは一切無く、
ラストに向かうにつれて、研ぎ澄まされ透明感を感じさせる演出となっています。
また、物語の進行と共に、2人の髪型、服装などもどんどんシンプルなって行きます。

物語はラブ・ストーリーですが、爆破事故から取調べを受け逃避行に至る設定は、サスペンス的な要素をも持っています。
罪を背負った2人の逃避行は、
男が一途な愛ゆえに罪を犯してしまう愚かさと純粋な愛と、
絶望の淵に死を覚悟していた女性が愛を知り生きようとする過程を、
緊張感溢れるタッチで描いています。

朝もやに包まれた草原の大樹下でのシーンはとても印象的です。
2人の姿はとても美しく、ひと時の幸福と純粋な愛を感じさせます。

ラストは、観客それぞれが2人の行く末を考え、想像させる終り方です。
全般的に何か哲学的なものを感じさせ、まるで一遍の詩を読んでいるようです。

イタリア、トスカーナ地方の美しい自然は、全体的にトーンを落とし少しセピア色を感じさせますが、
ラストの真っ青な空に昇って行くヘリコプターとの対比が、堪らなく切なく感じさせます。

■ ケイト・ブランシェットの新たな魅力に出会えます。
彼女の透明感溢れる、抑えた演技が素晴らしいです。



北京ヴァイオリン (2002) 公開(2003)
Together
★★★★
中国 1時間57分
監督・脚本チェン・カイコー
出演タン・ユン、リウ・ペイチー、チェン・ホン、ワン・チーウェン

現代の中国クラシック界を舞台に、
ヴァイオリンの優れた才能を持つ13歳の少年が、音楽に人間的に成長する過程と、その才能を花開かそうと奔走する父の姿を描いた感動作です。

2002年、サン・セバスチャン国際映画祭で最優秀監督賞、
  最優秀主演男優賞(=リウ・ペイチー)を受賞しています。

息子(タン・ユン)の為に、懸命に汗水流して働く父(リウ・ペイチー)の姿は、時には滑稽にさえ見えますが、
ひたすらに子供の才能を信じ、愛情を注ぐ父のさらなる深い訳を知ると、
素直に納得出来、胸が熱くなります。

強い絆で結ばれた父と息子ですが、その間、心のすれ違いがあったり、いさかいがあったりします。
最後に息子が選択した道と、
ラストでお互いの心が一つになる素晴らしい感動のシーンには、
ヴァイオリンの音色と主人公たちの想いが重なり合って、
涙無くては観られません。

■素直に感動出来るドラマです。

ただ、ラストに関しては異論のある人も多いのでは。
自分的には、白か黒では無く、もう少し違った選択もあるのでは、と思ってしまいます。



ボイス (2002) 公開(2003)
Phone
★★☆
韓国 1時間42分
監督・脚本アン・ビョンギ
出演ハ・ジウォン、キム・ユミ、チエ・ウジェ、チェ・ジヨン、ウン・ソウ

女性ジャーナリストが携帯の電話号を変えた事から起きる、恐怖の体験の数々・・・
携帯電話にかかる異様なノイズと、着信履歴が残らない携帯、
その携帯番号を手にした者は必ず死に至るという謎を追う、女性ジャーナリストの姿を描いたミステリー・ホラーです。

本作品もジャパニーズ・ホラーの影響を多分に受けた、「リング」の亜流的な作品です。
「リング」のビデオテープを媒介とした代わりに、本作では携帯電話が使われています。
電話番号が解約される度に、次々と使用者が変わって行き、着信の声を聞いた者は必ず死亡するという設定です。
前の使用者が順に引き継がれて行く設定は、例えば、賃貸アパートや事故車など、ある種の物語性や因縁めいた話を感じさせます。

援助交際や、それを取材した女性ジャーナリスト、ジウォン(ハ・ジウォン)への脅迫、人工授精の親子問題・・・
最初は現代の社会問題に絡んだホラーかと思ったら、
実は、不倫の愛憎劇、女性同士の嫉妬というオーソドックスな話であります。

幼い少女に霊が憑依します。
幼女の大人顔負けの迫力ある演技が、この映画の出来を左右しています。

■火曜サスペンス的な、泥臭い感ありのサスペンス・ホラーです。
音響効果で恐怖を煽ることに終始しているところが残念です。



抱擁 (2002) 公開(2003)
Possession
★★★★
監督・脚本ニール・ラビュート
原作A・S・バイアット
出演グウィネス・パルトロウ、アーロン・エックハート、ジェレミー・ノーザム、ジェニファー・エール

原作であるA・S・バイアットの「抱擁」は、ブッカー賞を受賞しています。

19世紀、ヴィクトリア時代の2人の詩人の封印された愛を調べる為、
文学者の男女2人が謎を解き明かして行く・・・
19世紀の恋人同士と、図らずも恋に落ちてしまった現代の男女の恋愛を平行して描いた文芸的ラブストーリーです。

19世紀の著名な詩人アッシュ(J・ノーサム)とラモット(J・エール)の秘められた恋と、
アメリカ人の文学者ローランド(A・エックハート)とイギリス文学の研究者モード(G・パルトロウ)が共に協力して詩人の真相を探る内に恋に落ちていく過程。
2つのラブストーリーはシンクロしながら進行して行きます。

全く異質な2つの物語を上手く融合させています。
2人の詩人の残された手紙や日記、辿った道のりなどで、2つのラブ・ストーリーは映画の中で一つになって行きます。
また、途中から、手紙の存在を知った人々から横取りされそうになったりと、ミステリー要素も含まれています。

■19世紀の2人の詩人たちの交わした愛の言葉は、思わずうっとりしてしまう程に美しい響きがあります。
美しいイギリスの風景と、素晴らしい衣装の数々も見所あります。

過去の2人の恋愛は純粋だけれど哀しい愛の物語になってしまいますが、現在に生きる2人の恋人たちは、過去を乗り越え希望に溢れるハッピーエンドになっています。
ラストは、何とも言えない余韻があります。



ボウリング・フォー・コロンバイン (2002) 公開(2003)
Bowling for Columbine
★★★☆
監督・脚本・出演マイケル・ムーア
出演チャールトン・ヘストン、マリリン・マンソン、マット・ストーン、ジョージ・W・ブッシュ

本作品は、2002年、カンヌ国際映画祭に正式出品され、
審査委員長デビッド・リンチが急遽、『カンヌ映画祭55周年記念特別賞』を設け、その功績を称えた話題作です。

1999年4月、アメリカ・コロラド州コロンバイン高校で起きた男子生徒2名による銃乱射事件。
多数の死傷者を出したこの事件を発端に、アメリカの銃社会についてさまざまな取材を試み検証して行きます。
ジャーナリストである監督が、鋭い視点で社会に問題を投げかけるドキュメンタリーです。

取材は、著名人(マリリン・マンソン、NRA(全米ライフル協会)会長チャールストン・ヘストン)から、ビル爆破事件の爆弾魔の弟(=無罪、兄は終身刑)、一般市民まで及んでいます。
ただ単に取材だけに留まらず、持ち前のユーモアとペーソスで相手に問題提起し、真実を掘り起こそうとします。
また、M・ムーア自身もNRAの会員であり、銃について理解を示した上での取材は一方的な批判に終わってはいません。
アメリカ社会での銃の歴史を順に追って解説し、他国との比較、NRAの主張などを取り混ぜながら、分かりやすく説明して行きます。

市民が銃を保持し、恐怖心と不安を持つ生活は、実は、大きな事実によってコントロールされており、
アメリカ国民の銃を持たざるを得ない状況が分かります。

■M・ムーアのパワーと熱気にあふれたアポなし突撃取材は、
カメラと、鋭い質問と、ユーモアを取り混ぜた独自の取材方法です。
アメリカの抱える問題や、社会の歪み、真の恐ろしさが示されます。



僕のスウィング (2002)
Swing
★★★☆
監督・脚本トニー・ガトリフ
音楽マンディーノ・ラインハルト、チャボロ・シュミット、アブデラティフ・チャラーニ、トニー・ガトリフ
出演オスカー・コップ、ルー・レッシュ、チャボロ・シュミット、マンディーノ・ラインハルト

10歳の少年とロマの少女の体験するひと夏の恋の物語を描いています。
マヌーシュ・スウイング(スィング・ジャズ的なジプシー・スウィング)の演奏に魅せられた少年がギターを習いに通っている内に、マヌーシュの世界と少女スウィングに魅せられていく・・・
少年と少女のひと夏の淡い恋とギターの音色が重なり合って、美しい世界を創り出しています。
※マヌーシュとは、フランス中部以北からベルギー、オランダなどに暮らすジプシーの通称。

2002年、ベルリン国際映画祭パノラマ部門、出品作品。

少年マックス(O・コップ)とロマの少女スウィング(L・レッシュ)の淡い恋物語と共に語られるロマの人々の迫害の真実。
一般的に知られていない迫害の事実(=50万人のロマ人がナチの迫害にあって強制収容所で虐殺された)を、劇中で老女が自らの体験談として語っています。
陽気で明るい、自由で気ままな音楽の中にも、実は、深い悲しみが流れている事に気づきます。

マックスとスウィングのお互いに惹かれあい、胸をドキドキさせて遊ぶ冒険の数々は、子供の頃にしか経験出来ない無垢で純真な体験です。
それゆえに、夏の終わりと共に訪れる別れには切ないものを感じさせます。
最後にスウィングに託されたマックスの日記には、彼のスウィングへの想いが込められており、また2人は違う住人だということも感じとれるシーンです。

少女スウィングは、実は、マヌーシュ・スウイングの投影でもあります。
マックスがスウィングと出会い別れることは、彼の出合った音楽マヌーシュ・スウイングとの別れでもあるのです。
マヌーシュ・スウイングの持つ音楽性−独特なリズム、自由さ、明るさの中にも、哀しい調べが感じとれます。

後半で、ミラルド(T・シュミット)が倒れるシーンでは、彼の魂が草原を駆け抜ける映像と音楽が見事にマッチしていて素晴らしいコントラストを生んでいます。

■ロマの人々の生活を知ることが出来る貴重な作品です。
黒い瞳の少女スウィングが、子供から少女になる一歩手前の不思議な魅力を感じさせていて、とても魅力的♪



ボーン・アイデンティティー (2002)
The Bourne Identitiy
★★★
監督ダグ・リーマン
原作ロバート・ラドラム
出演マット・デイモン、フランカ・ポテンテ、クリス・クーパー、クライヴ・オーウェン

原作は、ロバート・ラドラム原作の国際的なスリラー3部作の第1作目作品あり、スパイのジェイソン・ボーンを主人公としています。
「ボーン・アイデンティティー」は198年に出版されたヒット小説です。

ヨーロッパを舞台に、
記憶喪失に陥った男が自分の命を狙う組織と闘いながら、自分の正体を突き止める為に奔走する姿をスリリングに描いているアクション映画です。

無意識の内に表れる自分の恐るべき戦闘能力に驚きつつ、記憶を失い戸惑う姿をマット・デイモンが好演しています。
ジェイソンの自分を捜して模索する様子と、彼を追う組織が平行して描かれ、ラストに向かって上手く接点が一つになっていきます。
ただ、最初からジェイソン・ボーンの正体を提示しているので、謎解き部分は少なく、その点でのサスペンス性は薄れています。

マット・ディモンの格闘シーン、パリの公道でのカーチェイスは必見です。

■全体的にバランスのとれた万人向けのアクション映画です。
新しいタイプのスパイ映画。



 マトリックス・リローデッド (2003)
The Matrix Reloaded
★★★★
アメリカ 2時間18分
監督・脚本アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー
製作ジョエル・シルバー
出演キアヌ・リーブス、ローレンス・フィッシュバーン、キャリー=アン・モス、ヒューゴ・ウィーヴィング、マット・マッコーム、モニカ・ベルッチ

「マトリックス」3部作の第2部に当たる作品です。
この後、第3部「マトリックス・レボリューションズ」へと続きます。

コンピュータによる直接攻撃の危機に直面した、人類唯一の都市ザイオン。
人類最後の都市を救う為、モーファイス(L・フィッシュバーン)率いるネブカデネザル号の乗組員たちは、再びマトリックス世界へと向かう・・・
独特の映像世界と、難解とも思える奥深いストーリー展開。
息つく暇も無いアクションシーン連続のSF・アクション映画です。

■前作「マトリックス」の世界観をさらに広げた作品です。
スタイリッシュなアクションシーンはさらに進化しています。



 ミニミニ大作戦 (2003)
The Italiann Job
★★★★
アメリカ 1時間44分
監督F・ゲイリー・グレイ
主演マーク・ウォルバーグ、エドワード・ノートン、シャーリーズ・セロン、セス・グリーン、ジェイソン・ステイサム、ドナルド・サザーランド、モス・デフ

1969年に製作された同名作品のリメイクです。

犯罪のスペシャリスト集団が3500万ドルの金塊を巡って、激しい攻防戦を繰り広げます。
ヴェネチアのボートチェイスからロサンゼルスへと舞台を移し、ミニクーパーのカーチェイスと展開して行きます。
金塊強奪計画、裏切り者への報復、個性豊かなキャラクター、そしてアクション・・・
見せ場の詰まった痛快アクション・クライムムービーです。

泥棒のプロ(チャーリー、M・ウォルバーグ)、ドライビングテクニックのプロ(ハンサム・ロブ、J・ステイサム)、金庫破りのプロ(ステラ、C・セロン)、ハイテク機器のプロ(ライム、S・グリーン)、爆薬のプロ(レフト・イヤ、M・デフ)など得意分野を生かした面々が集合します。
最初は、金塊強奪計画から始まりますが、
やがて、裏切った仲間スティーヴ(E・ノートン)から金塊を奪回する作戦へと移って行きます。
一種の復讐劇でもありますが、血まな臭く無く、観た後は爽やかな気分になります。
綿密に練られた犯罪計画は、拍手を送りたくなるほど。
スマートな犯罪映画です。

■最初から最後までワクワクドキドキ楽しめます。
痛快な展開は、ストレス解消ー♪
色とりどりのミニ・クーパーが、とってもお洒落。
小回り抜群のドライビングは、小気味良く、観ていて楽しいデス!!



 メイド・イン・マンハッタン (2002) 公開(2003)
Maid in Manhattan
★★★
アメリカ 1時間45分
監督ウェイン・ワン
原案エドモンド・ダンテス
出演ジェニファー・ロペス、レイフ・ファインズ、ナターシャ・リチャードソン

マンハッタン。
五つ星の一流ホテル『ベレスフォード』の客室係として働く女性が、
未来の大統領候補と目されてる上院議員候補と出会い、はからずも恋に落ちていく・・・
まさにシンデレラ・ストーリーの王道を行くラブ・ロマンス映画です。

仕事と子育てと、時には悩みつつ、何時も前向きに取り組んでいるマリサ(J・ロペス)の姿に、誰もが幸せになって欲しいと感じます。
主人公とその他の登場人物の絡みは、どれを取っても一つ一つのエピソードに華があり、楽しいお話です。
マリサと息子タイ(タイラー・ガルシア・ボジー)の親子関係もお互いを思いやる姿が何とも微笑ましく、
メイド仲間やモニター係、上司など、マリサの周囲で働く人々は、何時もマリサを見守り力になってくれます。
貧しいながらも、周囲の温かい気持ちに助けられ、右往左往しながら最後には仕事も愛もゲットする・・・
ひと時の幸せに良いしれるハッピーな映画です。

■恋する乙女の映画です♪



 めぐりあう時間たち  (2002) 公開(2003)
The Hours
★★★★
アメリカ 1時間55分
監督スティーヴン・ダルドリー
原作マイケル・カニンガム
出演ニコール・キッドマン、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープ、エド・ハリス、ジョン・C・ライリー

本作品は、以下、他多数の賞を受賞しています。
2002年、アカデミー賞、最優秀賞主演女優賞、受賞
2002年、ゴールデン・グローブ賞作品賞、主演女優賞、受賞
2003年、ベルリン国際映画祭、銀熊賞、受賞

1923年、ロンドン郊外、「ダロウェイ夫人」を執筆中の作家ヴァージニア・ウルフ。
1949年、ロサンゼルス郊外に住む妊娠中の主婦ローラ。
2001年、編集者であるクラリッサ。
共に「ダロウェイ夫人」に関係する3人の女性。
時を越えて3つの時代を生きる女性たちが、
その後の人生を決定づけるある一日の風景を綴っています。
自分の行き方に疑問を持ち、向き合う姿を描いたドラマです

自分の『生』に疑問を持ち、安楽の地を求めて自殺を選んだヴァージニア・ウルフ(N・キッドマン)
「ダロウェイ夫人」の小説を愛読するローラ(J・ムーア)は、
自分を抑えて暮らす生活に耐え切れずに、寸前に自殺を思い止まり、家族を捨てて孤独に生きる『生』を選択します。
「ダロウェイ夫人」と称され、愛にさ迷うクラリッサ(M・ストリープ)
彼女は、エイズに侵された元恋人(E・ハリス)の世話をして、『生』と『死』に直面します。
彼女たちに共通するのは、形こそ違えど『死』と対面すること、
『愛』に迷うこと、そして、自分の居場所を探すことです。
3つのストーリーが、上手く融合し、一つになっていく構成は目を見張るものがあります。

ニコール・キッドマン、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープ、特にエド・ハリスの演技は素晴らしいの一言です。

■観ている最中より、終盤、特に観終わってからじわじわと来るものがあります。
後になればなるほど、ストーリーの伏線について考えてしまいます。
しかしながら、この映画は、はっきりと好みが分かれそうです。
好きな人には鳥肌が立つくらいの感動が、
そうで無い人には平凡な映画に終わってしまいそうです。



ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密 (2002) 公開(2003)
Divine Secrets of the Ya-Ya Sisterhood
★★★☆
アメリカ 1時間56分
監督・脚本カーリー・クォーリ
原作レベッカ・ウェルズ
出演サンドラ・ブロック、エレン・バースティン、アシュレイ・ジャッド、マギー・スミス、シャーリー・ナイト、フィオヌラ・フラナガン

普段から しっくりいかない母と娘。
あるきっかけで大喧嘩した2人を、長年の母の友人たち(=ヤァヤァ・シスターズ)が仲を取り持とうと奮闘します。
母と娘の親子関係と和解を描いた、楽しく、ちょっぴりほろ苦いハートフルなドラマです。

原作は、1997年に発表された同名小説です。
アメリカでは、550万部の大ベストセラーとなり、
20カ国以上で翻訳され、世界各国でもベストセラーとなっています。

母親(E・バースティン)と喧嘩した娘(S・ブロック)を、ヤァヤァ・シスターズ(M・スミス、S・ナイト、F・フラナガン)が故郷ルイジアナに誘拐します。
母の青春時代の話を聞かせるシーンに回想シーンを挟み、ストーリー展開して行きます。
母たちの少女時代、青春時代、そして現在と3回キャスティングが変わりますが、全く違和感がありません。
それぞれが役に溶け込んでスムーズに流れて行きます。

大御所の女優たちが演じるパワフルで、チャーミングなおばあちゃんたち、
そして回想シーンに登場する、ヤァヤァの儀式、シッダの初めての飛行機体験、下着姿の夜のドライブなど・・・
数々のエピソードはキラキラした輝きを放ち、何時までも心に残ります。

■母と娘なら誰にでも体験したことのある、親子の葛藤です。
その大きさの違いはあれど、身につまされる人も多いはず。
ヤァヤァ・シスターズの毒舌なジョークのやり取りが痛快で楽しく、
そして、親子の和解には、思わず涙します。

女性の視点から観た映画です。
観方によると女性の都合良さが目立ち、男性の存在が希薄です。
あまりに都合良く演出された男性たちに、不満を感ずる男性もいるのでは。
母親は4人兄弟の長女ですが、他の3人が少女時代のエピソードでしか登場しないのは、ストーリー上必要無いとしても違和感を感じます。



 ライ麦畑をさがして (2001) 公開(2003)
Chasing Holden
★★★
アメリカ 1時間41分
監督マルコム・クラーク
出演D.J.クオールズ、レイチェル・ブランチャード、ショーン・カナン

小説「ライ麦畑でつかまえて」に傾倒し、J.D.サリンジャーに会いたいと願う少年。
この小説の課題を出された事をきっかけに、ガールフレンドを連れてサリンジャーに会いに行く旅に出る・・・
青春時代の悩みと切なさを描いたロードムービーです。

主演は、プラダなど多数のモデルを務めたD.J.クオールズ

いろいろな悩みを持った少年ニール(D.J.クオールズ)が、この旅を通して学ぶ、
いわゆる自分探しの旅です。
両親の離婚や父の愛人の存在、兄の自殺、そして父との確執、
ただでさえ不安定な思春期にさまざまな悩みを抱えた少年の心は、繊細で心酔しやすい状況にあり、
サリンジャーに会いたいと願う気持ちが、次第に、ジョン・レノン殺人事件の犯人の心情と同化して行きます。
寸前で思い止まった少年は、自分の本当の気持ちと向き合うと事が出来、そこで自分探しの旅も終わります。
人を愛すること、人を許し受け入れること、失くしたものは元に戻らないけれど何時までも自分の心の中に存在すること・・・
そんな事を学んだと思います。

ストレートな青春ドラマです。
家族問題やさまざまな葛藤から自分探しの旅に出る設定は、よくありがちな話ですが、
余計な話を盛り込まず、シンプルに仕上げたところに好感が持てます。

■モデル出身のD.J.クオールズがとても魅力的です。
10頭身とも思えるスリムな姿、横顔より前から見た顔が素敵♪

青春時代の一ページをめくるような懐かしさを覚え、ほろ苦さが漂う作品です。



 リベリオン (2002) 公開(2003)
Equilibrium
★★★
アメリカ 1時間46分
監督カート・ウイマー
出演クリスチャン・ベール、エミリー・ワトソン、ティ・ディグス、アンガス・マクファーデン

第三次世界大戦後の近未来。
人間の感情を薬品によって抑制させ管理する全体国家を舞台に、
国家の戦闘組織<ガン=カタ>のエリートである男があるきっかけで感情に目覚め、
人々を解放する為に国家に挑む姿を描いたSF・アクション映画です。

この映画の為に考案された<ガン=カタ>という戦闘スタイルは、
従来のガンアクションに東洋武術の型を融合させた独特のスタイルです。

「マトリックス」を意識したスタイリッシュなSF・近未来アクションです。
主人公のブレストン(C・ベール)の華麗なアクションは、まるでダンスを見ているような美しく力強い戦闘シーンです。
柔を感じさせる東洋のカンフーと、銃器を組み合わせたスタイルは独特の世界を作り上げています。
ただ単に「マトリックス」の模倣の域に終わっていないのは、
C・ベールの個性と、斬新な戦闘スタイル<ガン=カタ>にあります。

ただ、難を言えば、恐怖政治を統治する敵にカリスマ性が無く印象が薄いところが残念です。

■アクション好きな方には、身震いするほどわくわくする映画です。
ストレスの溜まりがちな方に是非!!

後半のC・ベールの上下白の詰襟スタイルには、皆さんホレボレ♪



 略奪者 (2002) 公開(2003)
Sueurs
★★★
監督ルイ=パスカル・クーヴレール
出演ジャン・ユーグ・アングラード、ヨアキム・デ・アルメイダ、シリル・トーヴナン、サガモア・ステヴナン

監督は、本作品が劇場映画デビューとなる、CM界出身の新鋭ルイ=パスカル・クヴレール。

北アフリカ、モロッコの広大な砂漠地帯。
空港で砂金10トンを強奪し、警察からの追跡をかわしながら、灼熱の砂漠を大型トラックで疾走する4人組。
それぞれの欲望と疑惑が絡み合い、生き残りを賭けて逃走を続けるノンストップ・アクションです。
最初から最後まで緊張感溢れるサバイバル・ロードムービーです。

砂金強奪犯の男4人は、ラリー・ドライバー(ハーヴェイ、J・H・アングラード)、ハーヴェイの相棒である整備士(ヴィクター、C・トーヴナン)、航空管制官であり砂金強奪計画の首謀者(ノア、J・D・アルメイダ)、殺し屋(シモン、S・ステヴナン)からなります。
些細な事から一人殺害した事をきっかけに、残った3人の結成は崩れます。
砂金を独り占めしたい欲望と、砂漠に置きざりにされるかも知れないという恐怖、裏切り・・・
いろいろな憶測が浮かんでは消え、疑心暗鬼になって行きます。

空港での砂金強奪から始まり、砂漠の中での警察との銃撃戦&カーチェイス、地雷の埋まる危険地帯を強行突破するなど、見所あるシーンがたくさんです。

■どこまでも続く砂漠の波に、真っ青な空のコントラスト。
褐色の朝焼けから始まり、夕焼けに至るまでの大自然の採光。
CM界で培った監督は、大胆な構図と美しい映像です。

ストーリーはいたってシンプルです。
決してキレイでないけれど、粋なバイオレンスアクションになっています。



 猟奇的な彼女 (2001) 公開(2003)
My Sassy Girl
★★★☆
監督・脚本クァク・ジェヨン
原作キム・ホシク
出演チョン・ジヒョン、チャ・テヒョン、キム・インムン、ソン・オクスク

1999年、大学生のキム・ホシクがインターネット上の掲示板に投稿した体験談が元になっています。
その後、話題になり単行本化され、ベストセラーになった物語が原作となり映画化されました。

映画は、サッカーの試合に例えた3幕構成です。
『前半戦』は、主人公キョヌ(チャ・デヒョン)と彼女(チョン・ジヒョン)との出会いから交際に至るまでの数々のエピソードを、
『後半戦』は、それぞれの家庭や彼女の過去、そして別れへと進む展開、
『延長戦』は、別れた2人のその後と、出会いを描いています。

テンポの良いラブ・コメディと、ほろりと泣かせるクライマックス、そしてハッピーエンドのエンディング・・・・・・
いろんな要素を盛り込んだ、素直に感動出来る作品です。

少し泥臭い感ありの恋愛映画ですが、
チョン・ジヒョンの凶暴にして魅力あるキャラが、この映画を成功させています。

■とても楽しく切なく爽快なラブ・コメディです。
彼女が、山の向こうのキョヌに呼びかけるシーンは、涙ものです・・・♪



 レッド・ドラゴン(2002)
Red Dragon
★★★
監督ブレット・ラトナー
原作トマス・ハリス
出演エドワード・ノートン、アンソニー・ホプキンス、レイフ・ファインズ、エミリー・ワトソン、ハーヴェイ・カイテル

「羊たちの沈黙」「ハンニバル」に続く、ハンニバル・レクター3部作の第1作目にあたる作品。
トマス・ハリス原作。
「羊たちの沈黙」の前に書いた同名小説です。

猟奇的な一家惨殺連続事件が発生。
元FBI捜査官グレアム(E・ノートン)は、以前自分が逮捕したレクター博士(A・ホプキンス)に会いに行き捜査のアドバイスを要請、2人は事件の捜査と解明に深く関わり合って行く・・・お馴染みのサイコ・スリラーです。

最初から犯人(R・ファインズ)を提示している為、観客には、犯人の殺害に関する手段などが分かっています。
犯人探しの謎解き部分は少ないです。
主に、グレアムとレクター博士の心理的攻防戦を軸に描きつつ、
連続殺人鬼の苦悩と犯行、彼と盲目の女性との愛を絡めながら、事件の全貌に結び付けています。
グレアムと彼の家族の愛も描かれており、
3部作の中では、最も、登場人物を広範囲に、それぞれが背負った運命を描いています。
さらに哀しみを漂う作品になっています。

犯人が殺人事件を起こすべく原因になった不幸な生い立ち、
高い知性と美意識を持ちながらも快楽型残虐行為に走るレクター博士、
事件の捜査と心理戦に疲れた元FBI捜査官・・・
3人がそれぞれに抱える人生模様も垣間見ることが出来ます。

■猟奇的表現は3部作の中では最も控えめです。
しかしながら、やはりお子様には見せたくない作品です。
エミリー・ワトソンの迫真の演技にも注目!



ロベルト・スッコ (2001) 公開(2002)
Roberto Succo
★★★
監督・脚本セドリック・カーン
原作パスカル・フロマン
出演ステファノ・カセッティ、イジルド・ル・ベスコ、パトリック・デリゾラ

1980年代に実在した連続殺人犯ロベルト・スッコの短くも壮絶な生涯を描いた犯罪ドラマ。

スッコが(S・カセッティ)がレア(I・L・ベスコ)と出会い交際を続けていく話と、スッコの残忍な殺人、誘拐等の数々の犯行とが平行して綴られて行きます。
それぞれが別々と思われていたストーリーが、実は、ラストに向かって一つに交わって行きます。
終盤は、スッコの逃亡と警察の激しい追跡劇となり、ラストで死の結末を迎えます。

本作品では、スッコの犯罪の理由など内面的なことには一切踏み込まずに、無差別的犯行の数々を淡々と再現しています。
犯行を客観的に描くことによって、スッコの犯行理由や動機等がこちらには全く分からない為、観ている者にはさらなる恐怖が沸いて来ます。

■実録的な犯罪ドラマがお好きな方に。
残虐、猟奇的シーンは殆ど出て来ませんが、事実のみを再現しているところが返って不安な気持ちにさせられ、
彼の内面を探ってしまいたい気持ちに駆り立てられます。
ある意味、理由付けのある殺人より、こちらの方が数倍恐ろしいかも知れません。
人間の心の計り知れない残虐性に恐怖します。



わすれな歌 (2002)
Mon-Rak Transistor
★★★☆
監督・脚本ペンエーグ・ラッタナルアーン
出演スパコーン・ギッスワーン、シリヤゴーン・プッカウェート

本作品は、シアトル国際映画祭でアジアン・トレードウィンズ賞を受賞しています。

タイののどかな村で、素朴で幸せな日々を送っていた若い夫婦。
夫ベン(S・ギッスワーン)は、徴兵された事によって人生の歯車が狂いだし転落してしまう・・・
そして、村で夫の帰りをひたすら待ちつづける妻サダウ(S・シリヤゴーン)
それぞれの想いを描くノストラジックなラブ・ストーリーです。

主人公ベンが、あるきっかけで人生を踏み間違え、トラブルに巻き込まれてしまう転落劇です。
それはただ単に運命と呼べるものではなく、少なからず本人にもその意思があったのでしょう。
ベンが思いもかけぬ方向に流されて行った時も、たえず故郷を想い妻を想う気持ちがあったからこそ、ベンが故郷に帰ることになった時も彼が『愚かな人生の敗者』になるとは思えませんでした。
紆余曲折の後、愛する妻と再会しますが、 無くしてしまったものはあまりに大きく、決して元の2人には戻れないでしょう。
しかし、愛は作り上げていくもの・・・ベンとサダウの未来は、今までとは違った愛で歩んでいくと思わせるラストです。

ストーリーにのせて歌うタイの数々のメロディー、
2人の行方を暗示させるようなトランジスタ・ラジオ、
本作品中で上映されるのは、(=S・ギッスワーンも出演している)スクリーンにアップで映る「怪盗ブラック・タイガー」
監督の遊びこころと粋な小物使いが冴える作品です。

■タイの素朴な田舎を舞台に、懐かしさと、切なさと、けなげな愛で綴るラブ・ストーリーです。
人生の意味と、本当に大切なものを考えさせてくれる作品でもあります。