World Jazz Gallery Presents

¡Que Viva La Música Venezolana!

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第1話

ホローポとの運命的な出逢い

南米の知られざる音楽大国へ導いてくれた1枚のCD  (July/3rd/2004)

Aries Vigoth's Predestinacion
まったくの偶然に手にした1枚のCDがきっかけで、音楽地
図上の未知の領域が消えていくことは、音楽ファンにとって
至福の楽しみのひとつと言えるのではないだろうか。とくに
それが奇跡としか言いようのない出逢いだったとしたら。

今を去ること6年前、仕事でコロンビアに出張した弟のお土
産がAries VigothのCDでなかったら、おそらく現在に至る
までも私の地球音楽地図上のジャーノ地方は白地図のままだ
ったことだろう。弟が現地の人に勧められた2枚のCDのう
ちの正に「運命の1枚」が "Predestinacion" であった。

クンビア、アンデスの北端、そして、ヴァジェナートといっ
たコロンビアから連想される音のイメージは、最初のアルパ
(南米のハープ)の一撃で見事に撃沈されてしまった。そし
て切々と訴えかけるような、ストイシズムすら漂う情熱的な
歌。少なくとも「ラテン音楽」から連想されるような陽気で
ロマンチックな世界はここにはない。

情熱的な歌に超絶技巧で応えるアルパにしても、日本でポピ
ュラーなパラグアイのものとは(同じ楽器のはずなのに)随
分と違って聞こえる。男性的な(と言うとお叱りを受けそう
だが)力強い演奏。「ハープ=女性が舞台袖付近でつま弾く
優雅な楽器」というイメージはこの段階で完全に消えた。

楽器編成はアルパにクアトロ、マラカス、ベースの4人。ク
アトロはプエルトリコのものとは明らかに違う。マラカスが
刻む乾いたリズムがとても心地よい。幼少時代に聴いたマン
ボに始まり、タンゴ、サルサ、そしてアフロペルーとラテン
音楽とは近しくしてきたつもりだった私だが、完全にお手上
げとなった。知己を頼り、程なくこの「新しい」音楽がジャ
ーノ地方で演奏されているホローポであることが判明した。

それにしても!である。ベネズエラでこそ国民的歌謡として
親しまれているホローポであるが、民族音楽の宝庫コロンビ
アではこの音楽はフォルクローレの一部にしか過ぎないはず。
弟にこのCDを勧めたはどんな方だったのだろうか?とつい
つい想像力を逞しくさせられてしまう。

ベネズエラ音楽の紹介ページのはずなのに何故コロンビア?
という声が聞こえてきそうだが、この1枚なくしてホローポ
を始めとするベネズエラ音楽の魅力を知ることもなかったの
だからこれはやっぱり外せない。願わくば、もう一つの知ら
れざる音楽大国コロンビアの音源もどんどん日本に入ってく
るようになり、"Que Viva..." の最後に "y Colombiana" も
付け加えられるようになればいいと思っている。

Aries Vigoth
"Predestinación"

Llanos

ジャーノ地方



 Aries Vigoth(1957年生まれ)
 はコロンビアを代表するホロ
 ーポ歌手のひとり。家畜の仲
 買人として働く傍ら、歌手に
 なることを夢見て独学で歌の
 練習に励んでいたという。

 ジャーノ地方は南米コロンビ
 ア東部からベネズエラ中西部
 にかけて果てしなく拡がる大
 平原地帯のこと。熱帯サバン
 ナ式気候に属し、主要産業は
 牧畜業。カウボーイはジャネ
 ーロ(Llanero)と呼ばれる。
 ホローポの描く情熱的でロマ
 ンに溢れた世界は過酷な自然
 条件の反映ではないだろうか。
 
Edited by Kazunori KONO, July/3rd/2004   Back