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熱闘!関東大学ラグビー・リーグ戦 2007

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Weekly Report

流通経済大学 vs 埼玉工業大学

関東大学ラグビーリーグ戦G 1−2部入替戦(2007/12/09) 於:熊谷ラグビー場

<試合結果>

            T  G PG DG 得点 | 総得点 反則
 流通経済大学:前半: 1  0  0  0  5 |
 (1部7位):後半: 6  1  0  0 32 |  37  6
 +-----------------+-------------------------------+-------------+
 埼玉工業大学:前半: 1  1  0  0  7 |
 (2部2位):後半: 1  0  0  0  5 |  12  8


◎出場メンバー

 流経 : 1.金城 2.川西 3.夏目 4.慎 5.相 [6].吉田 7.古崎 8.フィフィタ
      9.田代 10.君嶋 11.屋宜 12.小浜 13.政光 14.森山 15.小野寺
     (16.松波 17.山崎 18.川渕 19.アッピネル 20.山下 21.木村 22.尾又)

    ○交代 14→22(後23分入替),  2→17(後33分交替),  3→16(後33分入替)
         4→18(後36分入替),  9→20(後36分入替),  8→19(後37分入替)
        12→21(後41分入替)


 埼工:  1.菊池 2.黒岩 3.木村 4.パセカ 5.エロネ 6.野村 7.松本 8.岡本
      9.高崎 10.劉 11.阿部 12.斉藤 [13].小林 14.藤倉 15.遠藤
     (16.西田 17.硲 18.家村 19.ヴィヴィリ 20.イノケ 21.吉田 22.パエア)

    ○交代  5→19(後 0分入替),  4→21(後 0分入替), 14→22(後 0分入替)
         6→18(後36分入替), 19→17(後36分入替),  2→16(後38分入替)


 レフリー :河野文高(日本協会公認)


◎得点経過

 流通経済大学  0                                  5               5
                                                  T
    時間     0----+----1----+----2----+----3----+----4----+ 得点
                        G
 埼玉工業大学  0              7                                   7


 流通経済大学  5            10 17     22       27   32      37   37
                      T  G      T        T    T        T
    時間     0----+----1----+----2----+----3----+----4----+ 得点
                              T
 埼玉工業大学  7                    12                           12


 ※時間×10分,T=トライ(5点),G=トライ+ゴール(7点),P=PG(3点),D=DG(3点),x=PG失敗


◎得点者

 流経:前半33分 フィフィタ(T)
    後半11分 森山 (T)
      14分 小野寺(T)、吉田 (G)
      22分 森山 (T)
      30分 フィフィタ(T)
      35分 政光 (T)
      44分 尾又 (T)

 埼工:前半13分 エロネ(T)
      19分 パエア(T)


◎試合内容

[キックオフ前の雑感]

中下位グループが近年希に見る混戦状態になった今シーズンのリーグ戦1部。
だが、その要因を冷静に振り返ってみれば、各チームがディフェンスを強化し
たことももちろんあるが、決定力不足に泣いたチームが多かったことも事実。
法政や大東大に例年の爆発力がなかったことが混戦状態に輪をかけたとも言え
る。そんななかで、失点は多かったものの、絶対的なエースが存在した拓殖大
が好成績を収めたことは特筆に値する。逆に他校に引けを取らない戦力を持ち
ながら、流通経済大と立正大が入替戦に回ることになってしまったのは不運と
言う他ないが、決めるべき人(エース)が不在だった面があったことも否定で
きない。

さて、入替戦の第1試合は1部7位の流通経済大と2部2位の埼玉工大戦の戦
い。今シーズンも決定力不足を解消できなかった流通経済大にとって、2部リ
ーグという点は差し引いても、爆発的な得点力で勝ち星を重ね、最終決戦で日
大と大接戦を演じた実績を持つ埼玉工大との試合には不安がつきまとう。昨シ
ーズンの入替戦(対立正大戦)での埼玉工大に対する印象は、「日本代表のク
リスチャン・ロアマヌといった絶対的なエースを活かしたまとまりのよいチー
ムで、来シーズンはさらなるパワーアップも期待できる。」だった。果たして、
流通経済大が1部リーグ校の意地、そして格の違いを見せつけることができる
だろうか。

[前半の戦い]

熊谷名物の赤城おろし(メインスタンド側から見てグランドの左からに右に吹
き抜ける強い風)が吹く中、風下に立った流通経済大のキックオフで試合開始。
当初の予想はFWのパワーで勝る流通経済大がFW周辺での戦いを挑んでくる
というもの。しかしながら、風下でキックを有効に使いづらいという点は差し
引いても、流通経済大はBKへのオープン展開でワイドに攻める。たぶんリー
グ戦ではこのラグビーがやりたかったのだろうな、ということは十分に感じら
れた。しかしながら、ボールは右に左にと大きく動くものの、埼玉工大の組織
的なディフェンス網に捕まって、継続はできてもほとんど有効なゲインが得ら
れない状況。アタックが(教科書通りといってもいいくらい)綺麗なものなだ
けに逆に止めやすい面があることも否めない。

そうこうするうちに風上に立っていた埼玉工大がペースを掴んできた。埼玉工
大は流通経済大とは対照的にFWのサイドアタックでゲインしてからオープン
に展開というスタイルで攻める。昨シーズンも入替戦で大活躍していたNo.8岡
本(3年)にトンガ出身のLOコンビ、エロネ・タキタキ(3年)、パセカ・
クリストファ(1年)が加わった強力なトリオがボールをどんどん前に運ぶ。
とくにNo.8の岡本は昨シーズンよりさらにパワーアップした印象。身長175cm,
体重95kgとサイズ的に特別大きいわけではないが、重心が低くてとにかく倒れ
ない。リーグ戦2部の(隠れた)逸材だと思う。

そして13分、埼玉工大が先制点を奪ってからは流通経済大が自陣で防戦一方
の苦しい展開に追い込まれる。埼玉工大はトンガ出身の選手が居るとはいえ、
身長170cm台の選手がほとんどの小粒とも言えるチームだが、No.8 岡本のよう
にがっちりした体型の選手が多く、重心の低さを活かしたタックルがビシバシ
決まる。アタックの局面ではFWでタテを突いて有効なゲインを稼いでからテ
ンポよくオープンにボールを展開する。流通経済大もタジタジといった感じで、
序盤戦を見る限りは、正直どちらが1部リーグのチームかわからないくらいだ
った。

しかしながら、時計が30分を回ったあたりからようやく試合が落ち着いてき
た。スクラムでは優位に立っていた流通経済大がNo.8のサイドアタックで大き
くゲインしてから試合の流れが変わり始めた。あれほどオープン展開で苦労し
ていたのに意外とあっさり抜けてしまった感じ。そして、33分に埼玉工大の
ゴール前でのラインアウトから得意のモールを押し込んでトライを奪った時点
で、やっと流通経済大が「格の違い」を見せ始めるようになった。No.8フィフ
ィタやLO相といった前に出られる選手がいるのだから、流通経済大は最初か
らFWでゴリゴリ行ってもよかったと思われる。流通経済大にとっては風下だ
った前半の失点が7点にとどまったことが幸いだったかも知れない。

[後半の戦い]

後半、埼玉工大はトンガからの留学生2人を替えてきた。前半に活躍した両L
Oは退いて、代わりにLOにヴィヴィリ・イオンギ(4年)、FBにパエア・
ミフィポセチ(1年)を投入。ちなみに日本代表のクリスチャン・ロアマヌは
負傷欠場。果たしてこの交替は吉と出るかどうか。結果論かも知れないが、埼
玉工大の意図することころは、後半は風下に立つためキックからのカウンター
アタックの局面が増えることが予想され、FBパエアの突破力が活きるはずと
いうものだったと思われる。もちろん、この時点では埼玉工大や2部リーグ関
係者を除いて、おそらくパエアが1年生ながらとてつもなくパワフルな選手で
あることは知る由もない。

しかしながら、この交替は流通経済大にとって吉と出たようだ。FWの強力ト
リオのプレッシャーが軽くなった分、流通経済大のアタックに勢いが出てきて、
11分、14分にBKのオープン展開で連続トライを奪う。期待のSO君嶋の
球捌きには非凡なものがある。14分のトライに繋がった「キックパス」は見
事だった。やはり、流通経済大はあくまでもこの形(オープン展開)で攻めた
いのだろう。風上に立っていることもあり、キックで有効に陣地を稼げるのも
大きい。逆に埼玉工大にとってはFWは前半の組み合わせの方がチームとして
機能していた(流通経済大にとっては脅威だった)ように思われる。

ただ、FBで後半から出場のパエアはクリスチャン・ロアマヌの不在(負傷欠
場)をまったく感じさせないくらい強力な選手だ。この選手がボールを持つと
とにかく止められない。175cm, 105kgと身長は高くないものの、重心が低くか
つ重いため、なかなか倒れない、いや倒せない。低くタックルに行っても強力
なハンドオフ(パンチに近かった気がしないでもないが)で弾ねとばされてし
まう。19分には自陣からのカウンターで並み居る流通経済大のタックラー達
を弾き飛ばしながら左タッチライン際を約80m走りきって豪快にトライを決
めてしまった。拓殖大の横山兄弟とは違ったタイプだが、大学生屈指のトライ
ゲッターになりうる選手で、今シーズン私が観た中でもパワフル度では文句な
しにナンバーワン。

そのパエアがボールを持つたびに、流通経済大サイドからは悲鳴、埼玉工大サ
イドからは大歓声が上がり、そしてスタンド全体からは大きなどよめきが起こ
る。後半20分の時点で17−12とビハインドは5点に縮まった。埼玉工大
が再び息を吹き返すか。だが、試合が終盤に入ってからは埼玉工大のディフェ
ンスに穴があき始め、流通経済大が貫禄を見せるかたちでゲームを完全に支配
するようになる。選手個々のフィットネスの面では自力に勝る流通経済大の選
手の方が上で、FWの選手が個々の突破力で前に出る局面が確実に増えてきた。
結局、試合は後半20分以降に4トライを重ねた流通経済大が「貫禄勝ち」を
収める形となった。

ゴールキックが決まっていれば(7本中成功は1本のみだった)もっと点差は
開いていたとも言えるが、後半20分までの戦いぶりを見る限り、埼玉工大が
勝ってもおかしくない試合だった。得点差からは想像できないくらい流通経済
大の関係者は冷や汗をかかされ、また、埼玉工大の関係者達にとっては「来年
こそは!!」の期待を抱かせた中での激戦はノーサイドとなった。

[試合後の感想]

最終的に圧倒できたものの、流通経済大は辛くも残留といった印象の残る試合
だった。勝つことがすべての入替戦だけに、テストでオープン展開を試みたと
は考えにくい。おそらくBKで取れるという目論見のもとでの前半の戦いだっ
たと思われるが、埼玉工大の予想以上の抵抗に遭って苦戦を強いられた。ただ、
結果オーライとはいえ、来シーズン以降のことを考えれば、流通経済大のオー
プン展開指向への回帰は応援している者にとって、率直に言って嬉しい。

流通経済大は元来(1部昇格当時)、BK展開で勝負するチームだった。現在
トップリーグで活躍しているSO加瀬(現IBM)やFBから後にCTBにコ
ンバートされたニールソン(現コカコーラ)を中心とした緻密なサインプレー
は大学ラグビー界に新風を吹き込んだチームといっても過言ではない。だが、
当時は法政と日大が強力FWで君臨しており、流通経済大が上位に上がるため
にはFWの強化が必要だった。流通経済大がFWを大きく強くしていったこと
も必然だったといえる。しかしながら、その過程で流通経済大の持ち味として
いたBK展開指向のラグビーの魅力は確実に失われていった。

最初の部分で述べた感想は、そういった歴史を振り返ってのものである。あと
は、今度こそ「決定力」だろうか。ずばり言うとトライゲッター(決めるべき
人)の育成ということになる。ただ、日大や中央大や法政といった伝統校、そ
して拓殖大の横山兄弟のエース達を見ていると、独りよがりと紙一重といえな
くもないが「俺が決めてやる」的な我の強さがエースには求められる。これは
個人の意識の問題と言えるかも知れない。「組織的に戦うこと」は大切だがに
そこに埋没することなく個の強さが活きる形のラグビーができるようになれば、
流通経済大は下位グループから脱出できるはず。来シーズンこそはBK展開で
トライを重ねる流通経済大が見られることに期待したい。

埼玉工大は前半の大健闘も及ばず今年も涙をのんだ。しかしながら、昨シーズ
ンの期待通り、今シーズンはさらにパワーアップした姿を見せてくれた。現在、
No.8の岡本は3年生でパエアは1年生であることを考えると、来シーズンはさ
らに強くなることが期待される。埼玉工大のラグビーを見ていて思ったことは、
トンガ出身の突出した選手達が居るにもかかわらず、彼らがチームの一員とし
て機能するスタイルのラグビーができていること。やはり、彼らが正智深谷高
校で日本の高校ラグビーを経験していることが大きいように思う。留学生を起
用している他校と比較した場合の利点とも言える。また、彼らの存在が他の選
手達に身体の強さを高めるという点でよい影響を与えているようにも思える。
日本代表選手が居るとはいえ、部員数は2チーム分プラスアルファのこじんま
りした陣容。このチームの活躍からますます目が離せなくなってきた。
                         (2007年12月15日記)

[余談ながら]

本来ならば、第2試合の立正大と日大の試合も観戦する予定だった。しかしな
がら当日は体調を崩していたため、熊谷に行くのも微妙な状態だった。天候が
よかったため何とかなるかと思ったが、やはり赤城おろしが吹くときの熊谷の
冷え込みはひと味もふた味も違う。残念ながら1試合目の結果を見届けたとこ
ろでリタイアとなってしまった。

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