ソット・ヴォーチェ



ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスの思い出
スペインのソプラノ歌手ロス・アンヘレスは日本にもファンが多く、頻繁に来日した時期があった。スペイン人独特の音色が好きで、コンサ−トにはよく行った。高音域になっても、細くならず、チェンジを感じさせず、自然な歌の流れは尊敬していたし、学びたいと思っていた。だいぶ前のことだが、あるエ−ジェントが、彼女の公開レッスンを企画したことがあった。私はチャンスと思い、事前のオ−ディションを受け、その公開レッスンを受けることになっていた。都内の有名なホ−ル、チケットは完売。受講者はもちろん、観客もドキドキしながら、ロス・アンヘレスの登場を待っていたが開演時間になっても、会場に現れない!主催者は、成田からこちらへ向かっていますが、交通渋滞で予定通り到着できません。もう少しお待ち下いと伝えた。それから、もう少しどころか、1時間も待った。いよいよ、客は怒り出した。チケットを払い戻してくれ!と。受講者だって、高いレッスン料を払っているのだ..一体どうなるのだろう?主催者はオロオロするばかりで、この予定外の出来事に対処法が判らない様子。そして閉会の30分位前に到着。そこで唖然としたのは、ロス・アンヘレスの堂々とした態度だった。交通渋滞が悪いのであって、自分のせいでは無い、と悠々と笑みさえ浮かべている!国民性の違いをはっきりと感じた夜だった。日本人なら、自分のせいではなくとも、観客をそれだけ待たせたら、「ごめんなさい..」くらいは言うはずだ。そんな訳で、その日の公開レッスンはできず、普段着で出てきたので、正式に歌の披露もできないと言う。(すべて、通訳が皆に伝えるのだが、その間も彼女はニコニコ。会場の不満ム−ド一杯が感じられないのだろうか?)
 やがて、主催者と関係者が話し合い、後日のコンサ−トのチケットと交換することになり、都合の悪い人は、当日のチケット代を払い戻してもらうことになった。
そして、レッスンは、希望者だけ残り、公開ではなく受けることになった。
その夜を境にこのソプラノ歌手に失望した人と、一層、ファンになった人とに分かれたのは確かだ。私は、あっぱれ!と感じた。そして、もちろんレッスンは、周りを気にすることなく、ゆっくりと受けられたことが忘れられない。