音楽ゆかりの地をゆく



リリ−・マルレ−ン
「リリ−ン・マルレ−ンを聴いたことがありますか」という本を読みました。
1970年代に出版されたルポルタ−ジュです。(鈴木明著、文春文庫)
「リリ−.マルレ−ン」...女性の名前が曲名になっているこの歌は、第二次世界大戦中、ドイツ兵が熱烈に愛唱し、やがて戦線を越えてイギリス兵やアメリカ兵にも歌われたことは有名です。
この歌には、シンプルですが一度聴いたら耳から離れない不思議な力がありました。
1998年、”平和への祈り”というタイトルでプログラムに組み歌いましたが、祈っても、祈っても、世界に平和が訪れません!
また私は歌います。以前、歌うことにした時に、自分なりに資料を探し回ったことを思い出します。
この国でも、日本語に訳され、女性シンガ−が歌った時期がありましたが、女性(リリ−)の立場から表現されていました。
私は、男(兵士)の立場で歌う歌詞が欲しかったのです。とうとう国内では見つけることができず、ドイツ旅行の折り、ハイデルベルクの小さな本屋さんでその詞を見つけた時、どんなに嬉しかったことか!
コンサ−トでは、恋人リリ−を思い戦場で散っていく兵士を表現することができたと思いました。
冒頭の本と出合ったのはその後でした。古本屋で目に止まった文庫本..「ああ、なぜ今なの?なぜ、コンサ−トの前に現れてくれなかったの?!」..そんな思いで色あせた本を読み始めて、なるほどと思いました。
著者が、1970年の大阪万博の時に聴いたマレ−ネ・ディ−トリヒが歌う「リリ−・マルレ−ン」がきっかけで、彼の”リリ−・マルレ−ンへの旅”が始まるのです。(この本を読んでみようと思う方の為に細かな内容には触れません)
1975年、一冊の本にまとまるまで、この旅は途方もなく長く、曲がりくねった旅でした。この頃でさえ第二次大戦が終わり25年も経っており、プロのノンフィクション作家でさえ資料探しに苦心したのですから、私が1900年代も終わろうとしている時期に”リリ−・マルレ−ン!”と叫んでも、そのル−ツを知る人(物)と出会えなかったのは当然と思います。
ともあれ、もっと早くこの本と出合えなかったことを口惜しいと感じましたが、ヨ−ロッパにおける戦いの歴史を知るチャンスが与えられたことに感謝したいと思っています。そして、また歌う日の為に、この本が現れてくれたにちがいないと感じ始めました。
因みに、著者が「リリ−・マルレ−ン」を取材した頃、あのベルリンの東西の壁はまだあったのです。
世界情勢は目まぐるしく変化しています。しかし、未だに戦争が絶えることがありません!
いつの世も戦地における男達は、ふるさとに残してきた女(恋人、妻、母)を思います。
女達は男達の無事を祈り、ひたすら待つだけです。
愛する者達が共に暮らせる時代を願いながら、歌います!
過去のヨ−ロッパの戦いを知り、イラクでは戦争が続いている現在、前回と違う歌が歌えるような気がしている私です。
それにしても、歌の持つ力は何と大きいことか!
”歌は、簡単に国境を越える。思想をも...。どんなに壁を作ろうとも!”  

2004年5月25日(サロンコンサ−ト3週間前)

       

ドイツ ハイデルベルグ城にて                      ローテンブルグにて