音楽ゆかりの地をゆく



♪HORELA LIPKA, HORELA (スロバキア民謡)
♪ホ−レラ リプカ ホ−レラ〜
突然、このタイトルだけでは、どういう歌か分からないと思います。実は、私達、日本人が「おお牧場はみどり」と習った原曲です!健康的な明るさとウキウキしたリズム感で、我が国では多くの人達に好まれています。皆さんは、どこで、覚えました?
 職場のコ−ラス.学校の歌集.歌声喫茶.テレビ(NHKの「みんなの歌」で広く知られたと思います)等、様々でしょうが、年齢を乗り越えて歌われています。

私は、ここ数年、スロバキアとの交流があり、この「おお牧場はみどり」を歌う機会が増えました。でも、心の片隅には「これでいいのだろうか?」という思いがいつも在りました。私達は、ハッキリ言って、他のヨ−ロッパの歌に比べて、あまりにスロバキアの歌を知りません。唯一、“チェコ・スロバキア民謡”として学んだこの歌を、向こうの方との交流の場で歌うしかなかったのです。海外の人達が、“日本人なら「さくらさくら」を取り上げれば、誰でも喜ぶ..”と思っているのと同じ位の安易さに感じられるのです。

スロバキアに詳しいI教授が、「実は原曲の詞は、全く違い、日本の“おお牧場はみどり”のように、健康的に、大人から子供まで歌えるものでは無い」と言っていました。
とても、そのことが気になっていたので、ル−ツを探ってみようと思い始めました。

あくまでも、私が見聞きした範囲で、推理も含め記載させていただきます。(「スロバキア」の歴史は、結合と分離の繰り返しであったので、国名が変わる度に、旋律が微妙に変化したり、歌詞も変えられていったようです)

◆強大なオ−ストリ−・ハンガリ−帝国が東欧を支配していた時代

 この頃は、チェコ・スロバキア時代で、隣国(オ−ストリ−・ハンガリ−帝国)の好色な領主が、狩猟にかこつけて、若い娘を召し上げようとするのを風刺した歌であったらしい。

   広い緑の牧場には、草が青々と生えている。
   山から流れ出す 私のように清らかな水が
   モミジのまわりを、私のまわりを流れていく。
   草を刈る二人の娘さんが 悲しそうに泣いていた。
   お城からそれを見ていた若殿さま、馬丁を呼んで言うことにゃ、
   “これ、馬の用意をせい、戦いに出るのじゃ”
   “鉄砲に弾丸をこめてもないのに、どうなさりますだね”
   “あそこの小鹿をうつんじゃ、あの18歳の娘ッ子をな”

あのメロディ−から、想像してして下さい!この訳はきっとおとなしいもので、原語のニュアンスはもっと、“えげつない”と思われます。あの曲の中間部(雪がとけて川となって〜)...そう言えば、領主が若い娘を追い回している情景にピッタリのメロディですね!この詞は、現在のチェコ側が“替え歌”にしたものらしく、スロバキアの人達は「本歌ではない」と好まないので、むやみに歌わない方がいいとか...。        
◆現在のスロバキアで歌われている楽譜にある詞

    真っ赤に燃える菩提樹、菩提樹
    その木の下には、僕の恋人
    真っ赤に燃える菩提樹、菩提樹
    その木の下には、僕のあの娘が座ってる ヘイ!

    丘の上から小川が流れているよ
    まるで僕のように澄んだ水だよ
    その小川はクルクルまわる
    カエデの木のまわりをクルクルまわる

    火の粉があの娘に降りかかる
    子供がみんなで、子供がみんなで
    火の粉があの娘に降りかかったら
    子供がみんなで泣き叫んだよだよ   ヘイ!

    たった一人、泣かなかった子供
    うそつきの子供、うそつきの子供
    たった一人、泣かなかった子供は
    あの娘に恋してたなんてうそついた ヘイ!

    泣くなよ、子供達、泣くんじゃないよ
    あの菩提樹をなんとかしようよ、なんとかしようよあの木を
    泣くなよ、子供達、泣くんじゃないよ
    あの菩提樹の火を消そうよ  ヘイ!

何と!“、菩提樹の木に雷が落ちて、木が燃えている”歌でした。しかも残酷にも、その木の下には、愛しい娘がいるんですよ..「ヘイ!」なんて言ってられないでしょう!? 何かの風刺か、教訓的な歌かも知れません。いずれにしても、上の二つの詞が解ってくると、スロバキアの人達は、あまりおおっぴらには歌いたくない歌にちがいないと思えます。また、日本民謡を若者が知らないように、スロバキアでも、若者はこの種の民謡に興味が無くなっています。こんな歌詞ですから、学校でも習いません。現在、このメロディを最も多く知っている国民は、日本人だと思います。近年、両国間の交流が盛んになり、交流の場で、日本人が「貴国の歌ですよ」と得意げに歌い始めるので、そこで初めて知る若者も多いはずです。知っている大人は、苦笑いをしながら、仕方なく合わせているのではないでしょうか?
年輩の方達は、宴会等でおどけて歌うようですが、公式の場で歌う曲では無いことが解りました。
(スロバキア首相や大使の前では、歌わなくて良かった!と胸を撫で下ろしています)
そんなこんなで、現地の人達に、歌いましょう!と誘うときは、私達が歌う「おお牧場はみどり」は、メロディが同じでも、“訳詞”を歌っているのでは無く“作詞”を歌っていることを、告げることにしています!

★最後に、私達が胸を張って歌える、素晴らしい詞を作った方を、紹介しておきます。

  中田羽後: 宗教音楽家。秋田県出身。シカゴの音楽大学.作曲科を卒業。讃美歌の歌詞の改訂に尽力した。歌集に「聖歌」がある。