ソット・ヴォーチェ



日本ピアノ事情
  Part.1 眠ってしまったピアノの話

「要らないピアノ、ありませんか?」という、まるで廃品回収のようなコマ−シャルが流れたのを聞いたことがあります。不愉快ですね!
このフレ−ズにも腹が立ちますが、”不要なピアノ”があちこちに存在することにも怒りを覚えます。いつから、この国は、ピアノを処分するほど豊かになったのですか?一般家庭で、ピアノを買うなど夢のように思えた頃..そんな昔ではないはずです。
音楽を本気で大切に思う人は、せっかく買ったピアノを手放すことはしないでしょう。安易に購入し、楽器としてではなく、家具としか思えない人が、例のコマ−シャルの楽器屋さんに引き取ってもらいたくなるに違いありません。その精神は文化的に低く、恥ずかしい限りです!ほんとに、必要としている国の人達は、物質的に貧しくても、”ピアノに憧れる心”が豊かです。”要らない”では、ピアノが可哀相すぎます。
せめて”眠っているピアノ”くらいの表現にしたいと思いますが..。
さて、”眠っているピアノ”を必要としている国にプレゼントする運動をしたいのですが「運送費のほうが高くて、なかなか実現できない」と言う人も居れば、「要らないピアノを、海外の子供達に届けます」と唱えている楽器屋もあります。果たして、高額な運送費でも、確実に送っているものなのでしょうか?真実が知りたいです!!


  Part.2 眠りから覚めたピアノの話

恵比寿ガ−デンプレイスにある麦酒記念館には、1920年ハンブルグ製の「スタインウェイ」が置かれています。
かつて、銀座のビアホ−ルの講堂に置かれていたというそのピアノは、1945年の東京大空襲の際も奇跡的に焼失をまぬがれ、戦後は進駐軍に接収され、米軍関係のパ−ティ等で使われたそうです。
しかし、いつの間にか誰が弾くこともなく、忘れられていたというのです。
今もなお、世界的評価の高い「スタインウェイ」がサッポロビ−ル社の講堂で50年も眠っていた訳です!
その名器を眠らせたままでいたのは不思議ですが、甦らせようと考える人達が現れたのは幸運でした!200万円をかけ修復された、このピアノのことが話題になったことを、多くの人が知っていると思います。「クリスタルな幻の音色復活!」そのニュ−スとともに、プロ.アマ問わず、多くの人達にそのピアノを体験して欲しいと、演奏希望者を公募しました。ピアノを弾く者なら誰もが憧れるその名器が弾けるというので、全国から希望が舞い込み、ピアノを始めたばかりの幼児から、音大生、ピアノ教師、サラリ−マンや80代の元音楽教師...それぞれに得意な曲を演奏し、現在もこの記念館の名物的コンサ−トになっています。
日本のピアノ人口には驚かされますし、応募する人が大勢存在することが、嬉しく「日本人も捨てたもんじゃない!」と誇らしくもなりました。
製作者は多大な愛情を注いでいます。ピアノは、弾かれてこそピアノです!愛が詰まった楽器を眠らせないようにするのも、ピアノに向かう人の愛情だと信じます。これほど、多くの人達に弾かれ、喜ばれ,愛されているピアノは他に無いと素直に感動しています。
私は、1920年製ということに興味があり、演奏会の無い時間に見せていただきました。ため息が出ました!象牙の鍵盤、譜面台には花柄の透かしが施されていました。
現代では製作不可能であろう、アンティ−ク調のピアノでした。ピアノという楽器を称えて「楽器の王様」と表現されますが、そのスタインウェイは「楽器の王女様」と呼びたくなるように、優雅でした!
「50年間、眠っていたのですから、そのぶん活躍し、まだまだ、多くのピアノ愛好者に夢を与えて下さい」と王女様にお願いをしてきました。
最後に、1934年に銀座にお嫁入りしたというこのピアノ。経緯はわかりませんが、その時代に、スタインウェイをこの国に設置した方のセンスに敬意を表したいと思います!
   ♪ドイツの人口3000人に満たないゼ−センの町工場から始まったスタインウェイは移住したニュ−ヨ−クでビッグビジネスとして、大きく花開きました。
    そして、2003年、創立150周年を迎えました。ピアノ音楽とピアノ文化が続く限り、「STEINWAY」は永遠不滅であり続けることは確かです!