ソット・ヴォーチェ



ポルトガル紀行 V
【6月2日】午前、私たちは楽しかったコインブラの町をあとに列車で、およそ2時間、ポルトガルの首都リスボンに到着しました。物心付いた頃から「リスボン」と言っていた都市名です
が、現地では「リスボア」と言います。空は晴れ、町は明るく活気に満ちていました。列車より先に着いて待っていてくれたバスのドアルテさんと再会!早速、市内観光です。
テージョ川と7つの丘に広がるリスボンの街並みは訪問するのに適当な広さとは聞いていましたが、限られた時間ではやはり広すぎました。
それでも、坂道の町に無くてはならないケーブルカー、石畳が敷かれた迷路のような小道やタイル貼りの建物等、異国情緒たっぷりで、ロマンチックそのものでした。
特に、皆の目と心を奪った紫の「ジャガランタ」の花は生涯、忘れることのない美しさだったと思います。
リスボンで最初に見た世界遺産は「ベレンの塔」でした。
16世紀初めに、船の出入りを監視する要塞として建てられたということですが、ポルトガルの栄枯盛衰を見守ってきた塔は、毅然とそして優雅に建っていました。
そして、パンフレット等でもお馴染みの「発見のモニュメント」...高さ52m、帆船をモチーフとし、大海へ乗り出す勇壮なモニュメントでした。
写真で見て想像していたサイズよりはるかに大きく、圧倒されました。遠くからこれが見えた時「とうとうリスボンに来たわね!」と仲間に感激の声を発したことを、今も覚えています。
真っ青な空に真っ白な「発見のモニュメント」は、まさに絵はがきを見ているようでした!

サンフランシスコにも似た(?)シーサイドのレストランでの昼食も楽しいものでした。
だいぶ気心も知れ、身の上話や、人生論に恋愛論..。陽気なラテンの空気が皆の心を開放してくれたようです。
この日のスケジュールもまた充実していて、昼食後にも世界遺産を見学するのです!
「ジェロニモス修道院」は、エンリケ航海王子の偉業を称え、またヴァスコダ・ガマのインド航路開拓を記念して着工されたものでした。
マヌエル様式を代表する壮麗な建物は、大航海時代を反映させた修道院でした。
レース細工のような、繊細な彫刻の南門の美しさにため息が漏れました。
教会内には、ヴァスコダ・ガマの棺が安置されており、彼の右側には、その偉業を一大叙事詩としてうたいあげたポルトガル最大の詩人カモインスが眠っていました。(明日、私たちは、彼の詩が刻まれた碑の建つ“ロカ岬”を訪れます)
内部に続く石のアーチの回廊も優美で見事でした!この壮麗な修道院は、海外からもたらされた富によって建てられたことは確かです!!
 この夜は、いよいよ本場リスボンの「ファド」を聴きます。市内観光を終え、私たちはホテルでゆっくりと、素晴らしいであろう夜会のための準備です。
コリンティア・アルファホテルは都会的で、ゴージャスなホテルでした。ここに2泊できることに感謝!その夜の「ファド」は想像通りもあり、予想外もあり !...
(詳細は「音楽ゆかりの地をゆく」に記載)

【6月3日】同じホテルに連泊できることは、何と楽なことか!..毎夜、荷物をまとめる作業を怠ることができなかったのですが、昨夜は解放され、思い切りちらかしたまま、眠りにつきました。
嬉しいことに、午前中にはフリータイムあり!早朝の起床からも解放され、ゆっくりと朝食を摂り、部屋へ向かう途中、ホテルの周りを散歩してきたという人、昨日、見つけた隣のビルのショッピング街で既に買い物を終えてきたグループ等に会いました。
早起きをした人達は、その分、ポルトガルの時間と空気を満喫したことになります。
皆さん、元気!!私は?..反省!
さあ、ポルガル観光最後の日です。この日も、魅力的なプランが詰まっています。この旅で「ファド」の次に楽しみにしていたところを遂に訪れます。
ユーラシア大陸最西端「ロカ岬」...数々の小説でも取り上げられ、その響きにも惹かれる「ロカ岬」は、北緯38度47分、西緯9度30分、高さ140mの断崖の上に、ポルトガル詩人カモンイスが詠んだ、詩の一節を刻んだ石碑が建っていました。
“ここに地果て、海始まる”このフレーズは、この断崖に立ってみて一層、胸に染みてきます。
 曇った日や、寂しい冬に訪れると感じ方も違うでしょう。この日は、楽しい仲間と一緒、快晴!海と空の青さに感動し、思わず皆で合唱しました。
目の前に広がる大西洋からの風をうけて岬の突端に立ち、「この遙か彼方にアメリカ大陸があるのか...」とつぶやきました。
2006年6月3日は「ヨーロッパの最西端に立った記念日」になりました!(最西端到達証明書なる物を、5ユーロ&10ユーロで発行して貰えると聞きましたが、誰も頼みませんでした。
我々のメンバー皆がここに到達したことの証人ですから!)

ロカ岬の絶景をしっかりと心に留め、次に向かったのは「シントラ」の町でした。
途中のバス内で、存分に歌いました。現地のガイドさんもビックリでした!きっと、子供の遠足のように、純粋に歌う中高年(?)のグループに心動かされたのでしょう。
初対面の時、無愛想に感じられた現地ガイドさんが、シントラに下車した時には、明らかに変化していました。
私に「アナタ、イイセンセイ。ミナサンノウタ、スバラシイ!」と言いました。これまで多くの観光客を案内したことと思いますが、きっと私たちのようなグループは初めてだったに違いありません。
“歌の力”は、ここでも異国の人との距離を縮めてくれました。
「シントラ」は、かつてイギリスの詩人バイロンが「エデンの園」と称えた町です。リスボンの西28km。緑の木々に覆われた山中に、王宮を中心に貴族やお金持ちの別荘が点在する美しい景観は、世界遺産に登録されているとのことでした。
もちろん一番の目的は、豪華な王宮を見学することでしたが、何しろ“お金持ちの別荘地”でもあります!
魅力的なお店が並び、女性達は、つい、あっちにもこっちにも、吸い込まれてしまうのです。「いつになったら世界遺産に辿り着くんだ?!」と苛立ちを隠せない男性も...。(どうか、お許し下さい!女性は、美しい物を見極めるセンスを磨かなくてはいけないのです!)
この地での収穫は、金細工とコルク製品でした。私は、この日、出会ったガイドさん(女性)が、素敵なネックレスをしているのを見逃しませんでした。
「シントラでのお薦めは、伝統の金細工です」とモトキさんが紹介しましたが、それを彼女が身に付けていたのです。ためらうことなく私たちは、その専門店に案内してもらいました。
今までに見たこともない美しいアクセサリーでした!金や銀を薄く延ばしてヒモ状にし、レースのように編んだもので、模様が細かいほど良質で高価なのです。
目移りがしましたが、私はポルトガルの記念として忘れないよう“ギター”のペンダントを買いました。ルーペで見ると、ギターの弦や模様が繊細に施されていて感激しました。
コルク製品についても、ポルトガルが生産量、品質とも世界一であることを初めて知りました。“コルク”と聞くとワインの栓くらいしか浮かんでこなかった私ですが、何と、スリッパ、バッグ、さいふ、帽子..傘まであるのです!これらを目にすることができたことでも見聞が広がりました。(自己満足?!)

豪華さにかけては類を見ないと言われている王宮は、王家の夏の離宮で、国の重要文化財です。
シントラに着き、この王宮を見るまで前座(?)が沢山ありましたが、楽しみは最後に...。
美しい「王宮」を見るために人々は列を作っていました。絢爛豪華な室内装飾は必見の価値がありました!内部はアラブ風の美しいタイルで覆われ、天井には27羽の白鳥が描かれ、天正少年使節団がもてなしを受けたという“白鳥の間”エキゾチックな“中国の間”狩猟の光景を描いたアズレージョや王家の“紋章の間”etc.
栄華を極めたポルトガルが偲ばれました。(残念ながら、王宮内は撮影禁止でした)
 国内でも有数の観光地と言われている小さな町は、世界中からの観光客で活気に満ちていました。夏の別荘地に相応しい清涼感の漂う、アットホームなレストランも忘れられません。私たちはリッチな気分を味わい、素敵なシントラを後にしました。
 ホテルへ帰る前に、思いがけず「アマリア・ロドリゲス」の記念館を訪問することが出来たこと、その夜、リスボンで2度目の「ファド」鑑賞...ポルトガル最後の夜のことは貴重な体験として、別に「音楽ゆかりの地をゆく」にまとめました。
6月4日.私たちは夢のような日々と別れ、帰国の途へ。空港では一週間、案内して下さったモトキさんと、安全運転のドアルテさんと別れを惜しみました。
特に、ドアルテさんとの西洋風の(抱擁の)挨拶は、女性陣は胸がキュンとなったようでした。そして「Obrigado」と「Adeus」を繰り返し、手を振った私たちでした。
私は、飛び立った機内から見えた、白壁にオレンジ色の屋根をしっかりと目に焼き付け、前夜のファドの調べを思い返していました。

この旅行を計画し、旅行会社に作って頂いた参加者募集のパンフレットに“世界遺産とファドに触れる旅”と記載しました。キャッチコピーと程遠い旅行が多い中、私たちのポルトガルツァーは、文字通り、目的を充分に果たした旅であったと自負しています。
「ファド」に関しては、触れるだけではなく、三夜もファド漬けになったのですから、しっかりと捕まえたという思いです。
歌を歌うことを専らとする私に、多くのことを吸収させてもらいました。共に、感動し、歌い、笑い、愉しんで下さった皆様に心から感謝します。
一週間、同じ空気を吸い、同じ食事をし、共に感動を共有した皆さんは大切なファミリーのような気がします。“同じ目的を持っての旅”..またご一緒したいですね!
この先、心晴れない日や、悲しいこと、辛いこと等に遭遇した時、きっと、思い出しましょう!
ポルトガルの青い空と海.笑いに満ちていた日々.情熱的な「ファド」.優しいマリア様の微笑み...
きっと、元気になれます!!  ー完ー           ♪K子