音楽ゆかりの地をゆく



旅情 − SUMMER TIME
1955年のイギリス映画。あまりにも美しい主題曲(Summertime in Venice)は、映画を知らない方も、どこかで聴いていると思います。私も、入門は音楽からでした。
昔、「映画音楽集」のレコ−ドから流れた、ひときわ甘いヴァイオリンの響きにすっかり虜になりました。映画は見たくても古い映画なので、なかなか出会えませんでした。(今でこそレンタルビデオなるものがあり、およその名作が手に入りますが...)
あきらめて、忘れていた頃、偶然、教育テレビで放映されることを知りました。その映画は、ヴェネチアの美しさを余すところ無く伝え、どの情景も、キャサリン・ヘプバ−ンのフアッションも全てが素敵でした!
あの名曲は、映画の中で流れて一層、甘く、切なく胸に迫りました。サン・マルコ広場のカフェでの主人公達の出会いから始まり、その後のデ−トの度、常に、楽士達によって奏でられる旋律は、ヴェネチアの風景にもピッタリでした。
内容は、ハイミスのOLが、旅行中に妻子ある男と恋におちる..というメロドラマですが、ハイミスの心情をいじらしく演じている、キャサリン・ヘプバ−ンは流石です!ヨ−ロッパ映画らしく、小物の演出も粋でした。くちなしの花.ヴェネチアグラス.ミュ−ル..この3点は心から離れませんでした。
そして初めてこの映画を観た時から3年後、イタリアへ渡りました。ミラノとロ−マの往復の生活の中、休暇にはヴェネチアへ行くことを楽しみにしていた私ですが、映画の場面のように、サン・マルコ広場に座ることが果たせていません。
二度、訪れたのですが、いずれも雨!!
屋内のカフェに座り、目を閉じ、その場面と楽士達の調べを想い浮かべるだけでした。それでも、美しいヴェネチアングラスを見て回り、購入したレ−スと時計は、今でも私の青春の宝物です。
くちなしの花がどのように登場するか?..この映画を見た人しか分からないと思いますが、サンタルチア駅から列車で帰る時、この花を渡してくれる人が居たらいいのに!と思ったものでした。
1955年...公開された当時、日本人にとっては、きっと夢のような映画だったと思います。近年は世界中どこへ行っても、日本人観光客が溢れていますが、この頃のヴェネチアには東洋人は一人も見あたりません。
主人公が街のウィンド−でみつけた、エレガントな「ミュ−ル」...当時、ヨ−ロッパで流行したのでしょうか?
物が溢れる時代に観た私でさえ驚いたのですから、当時の日本女性にとっては大きなカルチャ−ショックだったのではないでしょうか!あんな素敵なデザインのサンダルは見たことがありませんでした。「さすがイタリア!」と感じました。
そして数年前、ミュ−ルが大流行した時「あっ、キャサリン・ヘプバ−ンがダンスパ−ティで履いたアレ!」と思いました。もちろんデザインはアレにはかないませんが、早速、購入。私が履いているのを見て、たった一人「ヴェニスの夏みたいね!」と表現した人がいました。感動です!身近に同じ感性を持ったが人が居る嬉しさに飛び上がりたいほどでした。
今、その人を、私の音楽のパ−トナ−としても信頼しています。(偶然とは言え、昨年、「ヴェネチアのゴンドラレ−ス」を表した曲を共演しました。)
さて、夏が訪れると口ずさむその旋律に、歌詞をつけアレンジされたものを今春、合唱団が歌うことになり、指揮をしました。音楽を深く理解するために、皆でビデオ鑑賞もしました。ハイミスの主人公より、年齢を重ねた団員達と私...映画も音楽も、一層、切なく胸に響き、人生における“夏”がいとおしくてなりませんでした。そして、「旅情」という日本語のタイトルが、何とも言えない味わいがあることも今頃、気がついた私です。  2004.6.20

(♪映画の中ではヴァイオリンのメロディーが甘く胸に迫りましたが、安井かずみさんの日本語詞もステキです)

  

雨で洪水のサン・マルコ広場                     普通の運河風景