ソット・ヴォーチェ



「椿姫」と「LA TRAVIATA」
歌劇「椿姫」(日本語タイトル)は、イタリアオペラ最大の作曲家ヴェルディの代表作であるばかりでなく、イタリアオペラの中でも最も人気の高い傑作です。近年、海外からの歌劇団が次々と来日し、それぞれのヴィオレッタ(主人公名)がオペラファンを楽しませてくれています。さて、このオペラの題名について質問されることが多いので、私の学んだこと.思い.等をここに綴ってみました。

「LA TRAVIATA」のタイトルを訳すと「椿姫」なんですか?と聞く人がいたり、
「LA TRAVIATA」がイタリア語で“道にはずれた女”とか“道に迷った女”という意味であることを知った上で「なぜ、椿姫と二つのタイトルがあるの?」と聞く人がいます。
ある人は“道にはずれた女”の意味のタイトルを好きになれないと言いますが、日本人はきっと、みんなそうなのだと思います。
実は「椿姫」というのはデュマ・フィスの原作の小説名なのです。オペラの脚本にするため(脚本:フランチェスコ・マリア・ピァ−ヴェ)内容や人物等、色々変えた時点でもう異なるドラマになった訳ですから「LA TRAVIATA」というタイトルをつけたのです。従って、オペラの場合は「椿姫」ではないのですが、日本人はこの美しい響きが好きなようでポスタ−やチラシに「椿姫」と印刷してしまうのです。そして、副題のようにオリジナルタイトルが並んでいるのです。(洋画のタイトルもオリジナルと変えて、日本人に受けるようにしてヒットしたりしているではありませんか...)

もちろん欧米でのオペラのタイトルは「LA TRAVIATA」ただ一つです。オペラの印刷物で小説名の「La Dame aux Camelias」(フランス語)を目にすることはありません!
 “道にはずれた女”イコ−ル「娼婦」と考えたとき、初演当時のヨ−ロッパの人々は好まなかったと言います。これまでそうであったように、オペラの主人公は歴史上の人物や上流階級の人物でないと、許せなかったのでしょう。(これは「カルメン」の初演時と同じ現象です) しかし大作曲家の力で真実のドラマと素晴らしい音楽が一体となり永遠の名作になりました。
私は、ヴェルディのこのオペラの前奏曲が鳴り始めただけで涙が出てきます。実はオペラのタイトルになった部分が、ヴィオレッタが死を直前にしたクライマックスで歌うアリアの歌詞に出てきます。自分の人生を省み〜♪La Traviata〜と嘆き歌います。私も歌う時がありますが、このフレ−ズで泣けてきて、歌い通すことが辛いところです!...なぜ道をはずさなければならなかったのか?“運命”と片づけるには悲しすぎる!...そんなことを思うのです。ですから、このタイトルには深いものが込められていて、私は好きです!近年はオペラファンが増え、観客もレベルアップしてきましたので「椿姫」と、日本語タイトルを入れない場合もあるようですが、レトロなこの響きに拘る人が、まだまだ多いようですね!?

**あえてオペラの内容は書きませんでした。このエッセィの目的はオペラのタイトルに  ついてですから。でも原作の小説では「なぜ椿姫なのか?」知りたい人もいると思い  ますので付記しておきます。
小説の中で、女主人公が毎晩通う劇場の桟敷にいつも決まって椿の花束が置いてあり、月の25日は白い椿.残りの5日間は紅い椿..と色がとりかわるくだりがあります。
彼女の職業である高級娼婦と椿の花に囲まれた女の意味を思うとき、原題名のゆえんが見えてきます。芝居にはあっても、オペラには出てこない場面です。 2004.October.
〔写真は大好きなマリア・カラスが演じたヴィオレッタ.チラシは昨秋のメトロポリタン オペラに於ける「LA TRAVIATA」〕.